心梳く本たち3
外出時のお供にする本を選ぶとき、いつも迷わず一冊の本を手にとる。
アン・モロウ・リンドバーグ「海からの贈物」だ。
何度も読み返し、その度にいつも新しい発見があり、何回読んでも理解した気になれない、するめのような本である。
吉田健一の翻訳と、落合恵子さんの翻訳、どちらも好きだ。(落合さんの翻訳の方には、1970年代になって、著者によって新しく書き加えられた一章がある。)
持ち歩くときは、文庫本の吉田健一訳を手に取ることが多い。
この本は、女性の生き方、生活そしてライフステージを、貝になぞらえて進んでゆく。結婚、出産・育児、中年、子どもたちが巣立った後のこと・・・
繰り返しになってしまうが、本当に読むたびに、新しい発見がある。
それは、私のライフステージが、当然のことながら常に変化してゆくからで、そのとき必要な言葉が、まるで浮かび上がってくるかのように胸に届き、いつでも心に寄り添ってくれる、不思議な本なのだ。
驚くことに、執筆された1950年代から今日まで、60年余りも前に書かれたものとは思えぬほどの新鮮さで、発見と、勇気と、励ましと、希望と、それからまだ私の理解しきれずにいるたくさんの学びを与え続けてくれる。
まさに、私にとって、お守りのような本だ。
アン・モロウ・リンドバーグさんが当時の、そして未来の女性たち全員へ残した、愛、まさしく贈物なのです。
それを証明するための言葉を抜き出そうとして、失敗に終わって手が止まる。
引用したい言葉に線を引けば、たちまち一冊丸ごと赤線だらけになってしまうからだ。
悩ましい本でもある。
胸に響く言葉が多すぎて、眩しすぎて、先を読みすすめることが、時々できなくなる。だから私は、ゆっくり、繰り返し、何度も何度も読み返す。
その時々で、胸に響く言葉が変わっていくのが面白い。
全体を通じて語られるのは、人はみな孤独で、女も時々ひとりの時間を作ることが重要だ、ということ。
最近、読み返したときに残った言葉は、今までと全く違って驚いた。
それはすなわち、自分が変化していることになるから面白い。
子どもを産み育て、食事の用意をし、教育をし、一軒の家を維持していくという無数の気遣い、すなわち生活とは、「気を散らすこと」であり、私たちはそれを望んで結婚し、子どもを産む決断をしたということを忘れてはならないと、痛切に感じた。
ここに気持ちがひきつけられたのはきっと、私が子どもを授かったからであろう。
私たちは、自ら望んで「気が散る」生き方を選んだのだ。
文句の言いようがないじゃないか、がんばるしかない。
たった一冊、一冊だけ、自分よりも若い女性へ本を贈るとしたら、迷わずこの一冊を選ぶだろう。
私自身、この本と共に、これからの人生を歩んでいきたいからだ。
麻佑子