前世が葉緑体の友達
「俺って前世、葉緑体なんだよね。」
「それ、高校の時からずっと言ってるよね〜」
見慣れた顔の2人が交わす言葉の意味がわたしには全く理解できず、いつからか握りっぱなしだったビールを一口飲んだ。
どういうこと?
「中学の時にさ、理科の授業で顕微鏡で葉脈を見る授業があったのね。」
うんうん。
「その時に、葉脈の中を流れてる物質たちを見て、全身鳥肌立って、その時の記憶が一気に蘇ってきたの。」
「だから、正確には"葉脈の中を流れている何か"なんだけど。俺がずっと真顔で葉脈の中を流れてる、っていう記憶が蘇ってきたんだよね。」
前世とか来世とか幽霊とか呪いとか、そういう類のものをあまり信じるほうではなかったけど、けっこうびっくりして、面白かった。
また別の友人、別の日、新宿。
「そんなことがあるんだね、不思議だね〜 」
「今までずっと忘れてたけど、私にも同じような経験あるかも。」
「昔ね、自分が猫の夢をよく見てたの。
何回も見てて。
ある日、朝起きて全身で伸びをした瞬間に、なんか…衝撃ってほどじゃないけど、違和感、みたいな、なんか変だな、っていう感じがした。」
ええ。
この子は猫だったんだ。
たしかに猫みたいに可愛いし。
ちょっとロマンチックかも。
前世って、あるのかもね。
国民的アイドルも、
いつも面倒な注文でバイトに煙たがられてるあのおっさんも、
地球の裏側の真っ黒いひとたちも、
ダブル不倫してたあの有名人も、
友達も家族も、
大好きだったあの人も、
前世はダンゴムシだったのかもって考えると。
頑張って人間になったんだって思うと、
急に愛おしく感じられる。
わたしの来世は…
道端のタンポポとかでも悪くないかもね。
誰かに気にかけてもらえれば。
とか、かっこつけて言ってみようかと思ったけど、
やっぱり田中みな実でお願いします。