愛すべき室井先生へ。
ボサノバがかかっていて電子タバコの匂いがする日当たりの良い離れた部屋にいる室井先生。先生はスヌーピーや山下達郎のような見た目をしていて、なんだか僕のことを凄く買い被ってくれる。
先生は、ドグラマグラ、スタンダップコメディアンへの切符、小林秀雄、本居宣長、構造主義の絶望、バッタの魅力、僕の素晴らしさを、芸術の素晴らしさを、
学問の素晴らしさを与えてくれた。先生が最初に僕に託した本は『ソクラテスの弁明』だった。
僕は、先生を愛している。先生を失った日は、初めてできた彼女にフラされた日と同じ日だった。
彼は、体制と闘った。動機は知への愛、芸術への愛だ。国に潰されようとしている学部を、残そうとした。権威による圧力に対して、芸術による美しさで対抗した。バッタの跳躍力で、カウンターで、対抗した。彼は負けた。その彼が作った学部の最高最終傑作と自負しているのが、この俺や。