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GOOD WAR TOUR 18.イメージトレーニング
小屋入り二日目。昨日はよく寝た。
朝、名村造船所跡地に向かうため電車を乗り継ぎながら、「あの日」に想いを馳せて中学生の頃聴いていた曲を聴いていた。中学生の頃聴いてた音楽って一生聴けるな。
「m美電車降りれる?!」
とつぜん朗君からLINE。ねぼうか? わすれものか? と思ったら、ちがった。関係者の一人が発熱したという。
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おお。きたか。
手が震えた。中止なんだと思った。公演がなくなってしまう。
これまで時間をかけて作り上げてきたものが、日の目を見ることがないということ。
そうなれば仕方ないと覚悟していたつもりだったが、正直さみしいと思った。
お客さんがすくなくても、何人かにでも、見てもらえれば報われる。いや報われることなんてないのかもしれないけれど。
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でも、そもそも舞台ってこういうリスクを常に孕んでいるものなのだ。思い出した。
たくさんの人が関わってやっているんだもん。こんなことはほんとうはもっとある。今ここだけに起こり得ることではないよな。
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明日から、もうあの場に行くことができなくなるかもしれない。
写真を撮るなら今日しかないと思い、もう一度電車に乗って北加賀屋に向かう。
これから私は供養するみたいな気持ちで写真を撮るんだと思った。
「あの日」になっちゃうなあ。
あの場所が本当にモニュメントになってしまった。
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同時に、こんな経験をできることはとてもレアだ、という気持ちもあった。
思えば関わっている舞台が頓挫するのは初めてかもしれない。
この気持ちをぜったいに忘れたくないと思う。
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会場に着くと、朗くんとまをさんがいた。
美術をじっと見る。
こんなに見事な「モニュメント」、ないと思う。
今まさにモニュメントになってしまった、その瞬間を見た。
遠くでなにか「ホー」という音が聞こえる。遠い遠いところでなにかが反響しているような。
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昨日みんながここにいたんだ。
もともとそんなに多い人数じゃないけど、みんな。
今日は誰もいない。
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昼間、朗くんとまをさんと会議。展示作品に切り替えて制作を継続することに決めた。
とてもいいと思った。とても意味がある。
スケジュールを組み直し、上演開始を二日遅らせて制作に充てる。
しばらく何も考えたくない気もするけれど、そんなことを言っている場合ではない。
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ここにいるはずの人がいなくて、あるはずだった進行がない。
それでも窓の外からは車の走る音や雨の音がしている、日が沈んで徐々に暗くなってゆく。昨日見た眩しすぎる夕陽は今日は差さない。
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夜になると、だんだん展示品たちが寂しそうに見えてきた。
これからどうしていくべきなんだろう。
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制作26回目
日時:2022年1月23日(日)
出席:河井、蒼乃、河合、田中
場所:クリエイティブセンター大阪 名村造船所跡
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『GOOD WAR』は、私たちが「あの日」と聞いて想像する争いと日常で構成されています。
私たちは生きている限り、これからも誰かと戦い続けなければいけません。現時点で戦っていなくても、生きている限りいつか争いに巻き込まれます。『GOOD WAR』ではいずれ来る「その日」と、過去にあった「あの日」との向き合い方を鑑賞者と共に考えるべく、だれかの「あの日」で集積された記憶のモニュメントとして演劇作品を立ち上げます。
『PIPE DREAM』は、演出と出演を行う河井朗の祖母が医療ミスで植物状態に陥ったことをきっかけに、河井自身がマッチングアプリなどで無作為に出会った人々に「理想の死に方」についてインタヴューを行い、その中で語られた言葉から構成されています。
自身で動かすことのできない自分の身体、生きることも死ぬことも決められなくなった遠い自身、その自身の決定権を握っている人、それぞれと意思の疎通を図ることを試みる作品です。
『GOOD WAR』『PIPE DREAM』
原案 『よい戦争』(作:スタッズ・ターケル 訳:中山容 他 1985年7月25日出版:晶文社)
構成・演出 河井朗
ドラマトゥルク 蒼乃まを、田中愛美
出演 伊奈昌宏、諸江翔大朗、渡辺綾子
美術 辻梨絵子
音響 おにぎり海人、河合宣彦
照明 松田桂一
制作 金井美希
制作協力 (同)尾崎商店、黒澤健
衣装協力 MILOU
記録 田中愛美
日時・会場
2022年2月10日(木)〜2月15日(火)|北千住BUoY
※当公演は一部公演日時・内容を変更して実施されます。詳しくはルサンチカWEBサイトをご覧ください。