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先の緊急事態宣言中『痔疾の根治療法』という本を読んでいた

去る1月7日、首都圏一都三県を対象に緊急事態宣言が再び発令翌8日から実施、以後対象地域は拡大し益々の外出自粛やテレワークが求められる今日このごろ。
なので前回の緊急事態宣言中に読んでいた本の話しをしようと思う。

当時私は、国会図書館デジタルコレクションにある古い文献をパソコンでテキストファイルに書き起こしていた。別に書き起こしたものをどうこうする気はない。暇すぎて読むついでに書き起こしただけです。(元が画像データなのでコピペとかできない)
※国会図書館デジタルコレクションについては後半で簡単に触れております

書き起こしした文献はこれである。
『痔疾の根治療法:著者実験』(村井弦斎,明治43年9月発行,新橋堂)

なんでこの本にたどり着いたかというと、漫画家伊田チヨ子さんのこのツイートがきっかけであった。

もうこの時点でだいぶ面白い。

この本についてもう少し私なりに説明すると、タイトルどおり痔を患った著者の治療体験記だ。
著者は痔の自覚はあるものの痔の手術はなんとしても回避したいと痔に独自の姑息治療を施す日々。一時は自覚症状が激減するなど快方に向ったように見えたが、実際は時時刻刻と痔は悪化していた。そしてある時分、著者自身が痔に対して決定的な過ちを犯し、大出血と脳貧血を引き起こす。
それでもウダウダ言ってた著者だったが、色々あって手術する。(このウダウダと色々が最大かつ最高の山場なので、ぜひ本文を読んで頂きたい)
術後の経過は頗る快調で、痔疾の消失はもちろん食欲旺盛となり血色も大変良くなったばかりか、性格まで快活な話し好きとなり親戚の者の驚く始末。著者は「ナァンダ痔の治療だの手術だの、何ら恐れることはない。痔を患う者はトットと信頼できる医者に手術を依頼せよ、軽度の場合は座薬でも全快す」と痔の早期根治至上主義者に鞍替えし、自身や友人の失敗と経験を元に広く痔の根治療法を啓蒙するためにこの本を書いた…というわけである。

しかしこの著者、手術が怖いがために謎の姑息療法(※著者自身による表現)に手を出したり、完治してからは「みんなも早く医者いけよ!」とアッサリ掌返したりと、現代人とさして変わらない人間の弱さが垣間見えて非常に愛おしい。
著者である村井弦斎氏は明治・大正期のジャーナリスト・小説家なのだが、Wikiによると「SF小説の先駆者」とする向きや、「グルメコミックの先駆け」とも言える小説作品(『食道楽』など)を残していたりと、なにかと先駆けている。

著者の体験談もだいぶスリリングなのだが、著者の知人であり記者である星野君の体験談も相当にスリリングである。

星野君の痔は軽度だったもののやはり人から「早期に治療したほうがいい」と助言されたので、ある日新聞広告で見つけた私立病院に赴く。まだ軽度なのでどの医者が治療しても同じだろうという考えと、加えてこの私立病院は無痛治療と1,2週間での全快を謳っていたため、職業柄多忙を極める星野君にとっては何かと都合が良かったのだ。そして注射治療を受けるのだが、患部は良くなるどころか日に日に痛みが増すばかり。注射から7日めには、とうとう身動きできないほどの激痛となる。
結論から言えば、治療を受けた私立病院の医者はなりすましの藪医者(後に検挙される)で、消毒が不完全な器具を使ったため注射された箇所が化膿してしまったのだ。その後星野君は1ヶ月の入院を要し、肝心の痔の治療は未だ成されていない…という顛末である。

こ、こ、こ、こわすぎだろ。

姑息療法に一喜一憂しているほうがまだかわいらしい。こんな極端(と思いたい)な体験談、100年前に私が読んだとしたら恐ろしさのあまり医者から足が遠のいてしまう。聞こえのいいことを言う得体の知れない医者には十分気をつけよ、きちんとした然るべき医者にかかることが大事…という教訓なのだろうが、100年前の私立病院恐すぎる。(でも案外、現代でも同じようなことあるかもなぁ)

とにかく、現代でも応用できそうな著者からのアドバイス、100年前だから許される滑稽談(今医者からそれやられたら本人が笑い話にしてても大炎上だろ、みたいな)、そして変わらぬ人間の弱さなど、私は大変おもしろく読了した。特に手術前の医者の診察のくだりや、浣腸時の忍耐強さを看護婦に褒められ大得意になるあたり(術後は少しも我慢できなくなり明らかに残念そう)などは腹を抱えて笑ってしまった。(小学生レベルの下ネタがお嫌いな人はチットモ笑えないと思うけれども…)

まぁ現代だって痔は辛いだろうし、私のこの記事を読んで「痔の苦労話なんて全然笑えんよ…当事者じゃないからってバカにしやがって…」と思う方もいるかもしれない。だがこの本、「村井弦斎、笑わせに来てるよね? 明らかに途中、大真面目な口ぶりだけどノリノリで書いてるよね?」という箇所が多くある。そしてゲラゲラ笑いながら、「自分が痔になったときはとっとと病院に行こう」と少なくとも私は思った。なのでこれはそういう本なのだと思う。

100年後の人間に笑いと教訓を与えてくれた村井弦斎。最後に本書の村井弦斎氏のありがたい教訓から、感銘を受けたものをひとつ…

便通整理は何より肝要

そんなわけで、暇で暇でしょうがないなって時は、国会図書館のデジタルコレクションを漁るのも手かもしれません。

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Amazonで買える村井弦斎氏の本の例(『食道楽』はkindleに無料版もあるよ!)

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国立国会図書館で収集・保存しているデジタル資料をブラウザ経由で検索・閲覧できるサービス。本文は国会図書館に行かないと見れないものがほとんどだが、タイトルの検索と著作権が切れた文献などインターネット公開されているものは自宅のパソコンからも閲覧可能。インターネット公開されているものは古い文献がほとんどなので慣れてないと読みにくいけど、絵が中心のものもあるのでくずし文字とか読めなくても楽しめるよ!

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