
2024年私のホラー映画“各種思い入れ&クセ強”作品
先日、私が2024年に映画館で鑑賞した約45本のホラー映画の中から、個人的「2024年のベスト10」の思いの丈を書き殴った。
という事で、今回はベスト10の時に少し触れていた、
「ベスト10には入れていないが、独特の強烈なインパクトやクセの強さで“観られて良かった!”を書き残しておきたい」
ホラー映画を幾つか。
(更に次回はホラー以外の作品に関しても書き残しておきたいので、2024年の私の映画まとめはまだまだ続きます)
※記事の性質上、私個人の主観的感想であり、ネタバレを含みます。以上をご理解の上閲覧をお願いいたします。
※記事の最後に個人的ワーストにも(作品名は出しませんが)触れます。「自分の好きな映画を嫌いな人がいる」事を許せない・見たら気分を害する可能性のある方は閲覧をおすすめしません。
それではいきましょう、今年のホラー映画・俺デミー賞各部門賞です。
■生理的揺さぶられ悪酔い映像賞『インフィニティ・プール』

デヴィッド・クローネンバーグ監督のご子息であるブランドン・クローネンバーグ監督の作品。
「金でクローンを作り罪を肩代わりさせる」というビジネスを描く作品であるが、クローンを題材にしたバイオSFの雰囲気としてクローンやマッドサイエンティスト、国家等
“クローン技術サイドの暴走”
を描きそうなところを、本作はクローン技術を常習する
“技術利用者の感覚破綻”
をグロテスクな程に描いている。
主人公が本来持っていた善悪の区別だったり、命の重さ、死への恐怖が、付き合う富裕層コミュニティの異様な空気と倫理観により崩壊し、混乱や倒錯の果てに、やがて「本来」という感覚すらも分からなくなっていく様を、ビビッドな色や抽象的・性的描写でサイケデリックに描き、ミア・ゴスさん演じる富裕層のイカれ女の振る舞いや台詞が理性を炙るストレスでタガを外しにかかる。
映像表現としては同監督の『ポゼッサー』より個人的に好みだった。
タイトルである“インフィニティ・プール”は、自然物である水景と人工物であるプールの境い目が分からない(つながって見える)建築様式、の事だという。
どこまでがオリジナルで、どこからがクローンか。
グロテスクで醜悪な物語なのに、映像に、生命倫理に目を凝らしたくなる、幻想怪奇の魅力に満ちた忘れられない一本だった。
■滑稽×狂気×恐怖の後味賞『犬人間』
「未体験ゾーンの映画たち2024」にて。
イケメン青年は、四つん這いにさせ犬の覆面をかぶせた“犬人間”を“飼育している”。
物語冒頭で、恐ろしげな演出もなく、日常的切り取りのようなカジュアルさでいきなりこの映像を突きつけられて、私は戸惑いの変な笑いがもれたのをよく覚えている。
「ショートコント、犬人間」と言われれば完全にそれの“入り”だ。
明らかに中身が人だと分かる犬人間はあまりに滑稽である。
が、身なりも生活も小綺麗な青年が大真面目にそれを飼育している様は、どうしたって整った狂気として映る。
そんな、笑える見た目なのにドン引きして上手く笑えない強烈な彼らの生活に、マッチングアプリ中毒のガサツ女性が介入してくるわけだが、ここから更に質感が二転三転する唐突さが面白い。
犬人間と青年二人に抱いていた不気味さは、物語の途中から二人を「被害者」と「加害者」に分ける。
そして女性もやがて……。
私はかなり幼い子供の頃、『世にも奇妙な物語』の「ゴリラ」というエピソードで途中まで笑い、バッドエンドとは言い切れない終わり方にも関わらず最後で恐怖のドン底に突き落された経験がある。
あの時にきわめて近い、脱力感に似た恐怖を味わったのは大人になってから初めてだ。
■想定内の意外さ!口当たりと後味の差がエンタメギリギリ絶妙賞『破墓/パミョ』

この映画に関しては個別に記事で触れており、本来の「風水」に関してやや学んできた経験からかなり踏み込んだ独り言に近い専門的内容も書いている。
だが多くの日本の観客が予備知識なく映画を観ただけでは難解に(或いは思想的抵抗感を)感じ、興味や読み解きたい気持ちになったのだろう、たくさんの方々から閲覧していただき、リポスト、感想をいただいた。
風水史に知識があれば想定内、しかし日本でも公開に踏み切られた作品で出てきたのは意外だった、日帝風水謀略説に関して(かつて半島側では信じられていたが、現代韓国では迷信であるという見解が一般的だという)フォローがかなり薄く分かりにくい為、このへんを知らないほとんどの日本人がかなりギョッとする映画だったのは間違いないだろう。
故に、日本人にとってモチーフとしてのエンタメ性は低い。
しかし、様々な呪術や呪文が飛び交い、しかも個性豊かなキャラクター達が協力するという構図が、日本人にはかなり熱狂しやすかった。
この内容とパッケージングの絶妙さで、私にとってかなり特異なポジションの作品になったのは間違いない。
韓国のホラーエンタメは、シリアスなストーリーをアクションやダイナミックオカルトと絡めて大真面目に作られている。
日本がどんなに宗教的におおらかでサブカルチャーとして民俗学的なものの認知度が高かろうと、呪術や民間伝承や因習が出ると「中二病的な」と安いレッテルで(受け入れられたり褒め言葉だったとしても)括る現状では、骨太なフォークホラーエンタメは出てくるはずもない。
この点においては、私は外国の宗教・フォークホラー映画スタンスが羨ましい。
■こんなのアリかよ!?ヤバすぎアイデア賞『悪魔と夜ふかし』『雉岳山 チアクサン』
これは2作品。

まずは、レトロな生放送深夜番組でオカルト討論を行ったら、悪魔に取り憑かれた少女が「本物」で……という放送事故風ホラー『悪魔と夜ふかし』。
生放送中の(オンエア)映像の体で見せて行く作りが面白く(日本でもある「しばらくお待ち下さい」的な画面等)、起こる怪奇現象もめちゃくちゃダイナミックでド派手。
オンエア映像のみに徹さず、舞台袖でのやり取りシーン等もある所にやや(モキュメンタリーとは違う)リアリティラインの観にくさを覚えたが、放送事故映像ぶっ放しだけでなく、司会者のバックボーンにも言及していくストーリー展開は面白かった。
そして『雉岳山 チアクサン』。

あ……ありのまま、映画館で起こったことを話すぜ。
この映画、まず実話ベースのホラーという触れ込みで宣伝され、始まってみればマウンテンバイクの疾走映像に力を入れる導入部、やがてジャンプスケアから怪談話的になっていき、最後はシュメール文明&宇宙人というネタばらしをほんのりさせて、まさかの時系列こうでしたオチ。
何を見せられてたのか分からないまま気づいたら時系列をいじられた結末を目の前に置かれていたという超絶混乱経験をした。有名な『ジョジョの奇妙な冒険』第3部のポルナレフの台詞のように、「都市伝説」だとか「トンデモ論」だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ、韓国映画の恐ろしいポテンシャルの片鱗を味わったぜ……そんな映画である。
偶然予備知識を持ち合わせており、途中からこのオチが読めてたので、ヤバくなった仲間の体に楔形文字が浮き出てくるシーンは声出して笑いそうになってしまった。
■配信オリジナルベストホラー賞『セーヌ川の水面の下に』
Netflixオリジナル作品。
フランスがパリ五輪に盛り上がるというタイミングで公開した強気の話題性狙いと、それに見合うだけの社会問題・社会風刺を含むパワフルサメ映画。
そもそもメスのサメが“リリス”と名づけられてる時点で嫌な予感しかしないスタートだったが、想像を上回る大惨事の大盤振る舞いに驚き。
過激で手段を選ばないサメライツ活動家ガキや、トライアスロン選手の踊り食いを様々なバリエーションで見せるショックシーンは勿論、更なる絶望を確信させる静かなエンディング映像がめちゃくちゃ良い。怖すぎる。
サメを、ただの変異とか凶暴化という描き方をせず、汚れた海に耐えかねて追いやられた先で“苦しみながら淡水に適応した”という描写があったのが、環境破壊を引き金とするアニマルパニックものとして非常に素晴らしい。
リリスとその子らは「被害者」であり、彼女らの遡上と適応は「逃亡」の末の人類への「復讐」、そしてサメという種族としての「進化」でもある。
……以上、5部門6作品が、私の2024年ホラー映画体験の中で独特な存在感を放つ作品達でした。
ちなみに今年のホラー映画ワーストに関しては「いつもの客をナメた悪いつくりのJホラー」が2本と「コアなファン以外お断りなイースターエッグ集合体(で、当然の一般層からの批判にもファンが態度悪く上から叩いてくる)」海外のやつと「何の味もしなかった」海外のやつの4本があります。
全て映画そのものから「面白くなかった」以上の感情を掻き立てられたので。
次回は、そこまでたくさん観ていない中での、ホラー以外の2024年のお気に入り映画を書き残す予定です。
よろしければ、また。