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ぬいぐるみに魂が宿り、その無邪気な友情が……血の雨を降らす!映画『ベニー・ラブズ・ユー』

『未体験ゾーンの映画たち』というイベントがある。
様々なジャンルから日本未公開の映画をローテーション式に公開していくもので、小規模ながら宝探しのような映画祭だ。
(キャンプに来た若者達がマイペースな仲良しおじさんコンビを勝手に殺人鬼と誤解、別荘で楽しく暮らしたいだけのおじさんコンビなのに、それが不幸なピタゴラスイッチ的に若者を殺めてしまい……というおバカで楽しい今や大人気のスプラッタコメディ『タッカーとデイル』は、この映画祭で紹介された。)

今年の『未体験ゾーンの映画たち2023』にも、日本未公開の個性的な映画が揃い踏み。30あまりの上映ラインナップが明かされた時から惹かれる作品が幾つもあった。
その中で最も異色、かつ真っ先に目を引かれた作品がホラー映画『ベニー・ラブズ・ユー(原題:Benny Loves You)』。

『Benny Loves You』海外ソフトパッケージビジュアルより


『Benny Loves You』ポスタービジュアル

この赤いぬいぐるみが「ベニー」である。
可愛くて、持ち主・ジャックの事が大好きな彼が、ジャックのために友情の凶器を振るう……という、ファンタジックなホラーコメディだ。
個人的に今年の「未体験ゾーンの映画たち」で観た作品の中で最も面白かった、また、最も愛着を持てたし繰り返し観たくなるほどお気に入りになった映画はこの作品!

殺人鬼の魂が宿るご存知「チャッキー」、執念がこびりついた悪魔の人形「アナベル」等、恐るべき“人形ホラー”映画の歴史に彗星の如く現れた愛すべき赤いモコモコについて、今日は書いていく。

※あらすじと、未体験ゾーンの映画たち公式から公開されている予告編のリンクの後、警告文を挟んでネタバレ有りの感想となります

■あらすじ

とあるワガママ少女の部屋。
少女は新しいおもちゃの人形に夢中で、以前から持っていたクマのぬいぐるみには見向きもしなくなっていた。
夜、眠る時間になっても騒いでいる少女に業を煮やし、母親が寝室に叱りに来ると、そこにはーー

また別の場所。
ジャックは35歳の独身男性、実家住まい。
両親との仲は良好だが友達はいない。デートした女とも気が合わず、彼が実家住まいと知るとあからさまに幻滅を見せた。

両親がジャックの誕生日パーティーの準備をしている時、ふとした事から事故が発生。両親は亡くなってしまう。
残されたジャックに無いのは生活力だけではなく、仕事で降格されたせいで家のローン支払い能力も……ジャックは幼い頃から住み慣れた家を売りに出すしかなくなり、引っ越しの支度を始めた。
荷造りと片付けの中で、子供時代、怖がりの自分に母が与えてくれ、ずっと大切にしていたぬいぐるみ「ベニー」をゴミに分別し、手元に別のおもちゃを残すことに決めたのだが……。

(未体験ゾーンの映画たち公式チャンネルより、日本語字幕予告編)

ここから内容・キャラクター・展開に触れるネタバレ有りの感想となります!
ネタバレ注意!!



まず、前言撤回して言う。
私は先程このホラードール・ベニーに並べて「チャッキー」や「アナベル」を挙げたが、ベニーが肩を並べるのは彼ら、恐怖の人形だけではない。
クマの「テッド」(『テッド』)。
カウボーイの「ウッディ」(『トイ・ストーリー』)。
黄色いおばかさん「プー」(『プーと大人になった僕』)。

「ベニー」は、そしてこの映画『ベニー・ラブズ・ユー』は、悪役として恐怖の人形が襲い来るホラー映画にとどまらない。
子供の頃ともに過ごした仲良しでお気に入りの、そして、大人になるにつれ付き合い方の変わってしまったおもちゃと、持ち主の人間の物語だからだ。

ベニーが人を殺す理由は、
「ジャックを困らせたり、ジャックに嫌な思いをさせる人間の排除」
と、
「ベニー以外の誰かをジャックに好きになって欲しくないという独占欲」
の二つ。
これを考えると、サイコパスめいた嫉妬深い殺人鬼のように思える。
しかし、ベニーが人を攻撃したり殺したりする時に、
「ジャックを困らせやがって!」という怒りや憎しみ
「ジャックをとらないで!ジャックが好きなのはベニーだけでいい!」という妬み嫉み
の苦しみを一切見せない
のである。

はしゃぐように跳び跳ねて、遊ぶように殺戮を犯すベニーはそう、
「サイコパス」なのではなく「無邪気」なのだ。
「嫉妬深い」のではなく「ただただジャックとベニーだけでいたい」だけなのだ。

文章で上手く違いを伝えられているかは自信が無いのだが、ベニーには打算がない。

チャッキーやウッディらと違い、いつでも楽しげなベニーは、登録された複数の楽しげなおしゃべり音声しか発しない。
だから(音声登録されていないから)怒りや妬みを見せないんだろ?と思われるかもしれないが、劇中で一度明確にホラー映画?を直視できず怯えている姿を見せている。怯える音声は登録されていないのに、だ。
これを見た時、ベニーには登録音声に相当する気持ち以外の感情もあるのだ、と分かった(更に、ジャックに拒絶された時など、トボトボ寂しそうに行動する様を見せている)。

その上で、ベニーは怒りも憎しみも見せない。
つまり、怒りや憎しみのような感情から殺戮を行っている印象はどうしても受けにくい。
ベニーの殺戮動機はただ
「ジャックに喜んで欲しいから」
「ジャックと自分だけでいたいから」
だと、観ていてはっきりと伝わる。
これが私にとってベニーの最大の魅力だった。
意思を持つおもちゃや、獰猛な殺意と殺しの技を身につけたおもちゃは他にもいる。そんな中でベニーだけが、打算も黒い意図もなく、ただひたすら友情と愛情だけを持っていて、結果的にそれが殺戮を引き起こしているだけ……という存在だ。

“登録された音声しか発しない”というのも、ベニーの「どこまでいってもおもちゃらしさ」を失わせず、悪役だとか殺人鬼だとかの個性より何より大きく「おもちゃのキャラクター」としての愛着を抱いてしまう。


この作品では他に
「新入りのせいで飽きられたクマ」
「肝煎りで開発されていたが見限られたロボット」
「事故の原因となってから疎まれたお人形」
というおもちゃ達が登場し、それぞれの持ち主に襲いかかった。
これらを撃退できたのはただ一人、「自分はもう大人の女だ」という意思で、愛着や思い出やトラウマに負けずきっぱり決別を言い渡す女性・ドーンだけだったのもまた、彼女の個性を引き立たせていてとても好きなシーン。

物凄く端的に、分かりやすく伝えやすいスラングで言ってしまえばこの映画は、
「子供部屋おじさんとヤンデレ人形の物語」
なのかも知れない。
けれど、私個人としてはこれらのスラングに多少含まれているネガティブなイメージは、この映画にはしっくり来ないような気がしている。
特に、前述のようにベニーの愛情には私は少しも“病み”を感じないし。
(人によってはベニーくらいの凄まじい執着=ヤンデレ、という捉え方の人もいると思うので、これは否定しないけれど)


誰にでも幼い頃の思い出があり、特別なおもちゃがあった。
「君は特別」
と言われ長い時間をともに過ごしたおもちゃは、きっと嬉しくて、きっと持ち主を大好きになるのだ。
たとえ持ち主が大人になり、おもちゃを必要としなくなっても、ずっと。
「特別」だったのに「捨てられた」おもちゃ達は、ゴミ捨て場の焼却炉でもまだ持ち主を思う。
おもちゃも思っているからだ。
「君は特別」
と……。


『ベニー・ラブズ・ユー』、ソフト化や配信がきたら、ぜひ!

おまけ。
好きすぎて帰宅後即フェルトで自作したベニー。

タラ~ン♪





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