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映画『ザ・ウォッチャーズ』…全力でこのジャンルのホラーを“やる”という誠意の通う、最高に美しき恐怖(観た人向け感想※絶賛)


『ザ・ウォッチャーズ』ポスターヴィジュアルより

※内容に触れる記述を含んでいます。ポスターヴィジュアルで気になった未見の方は、前情報を出来るだけ入れずに、先に映画を鑑賞する事を強くオススメします!!

公開中、観たい観たいと思いつつ時間が合わず映画館で観られなかった『ザ・ウォッチャーズ(原題:The Watchers)』を配信で観た。

予備知識としては小説原作という事と、どんでん返しのレジェンド的な名監督M・ナイト・シャマランのご息女、イシャナ・ナイト・シャマラン監督作品、という事くらい。
私の場合は、お父上の作品と比べてどうのとか、サスペンス見たさとか、親譲りのどんでん返し期待とかそういった視点を一切抜きにして鑑賞した。
……のだが結論として、それらのフィルタ的評価基準の有無に関わらず、私の中で本作の評価はゆるがない。
Filmarks★5です
観た人も観てない人も
「えっ、何がそんなに」
と思うであろう事は理解できる。特に前述の期待フィルタ(鑑賞ハードル)とか、オチや秘密の正体とかが、おそらく刺さらない人が多そうな感じはするので。

しかし。
民俗学畑に片足突っ込んでいる人間の一人としては、一本の映画、特に後に明かされていくフォークホラーというジャンルにおいて限りなく素晴らしい一作だった
この作品スタンスへの感動は、台湾映画『紅い服の少女』2部作以来である。

前提的な話になるが、世の中に溢れるフォーク(民俗学的、伝説モチーフ)ホラーのほとんどが、伝承文化の存在に対し
“奇抜ないし知名度の高い元ネタ求め”
としてしか接していない

端的に言えば名前だけ流用した化け物であったり、アメリカンホラーの定型っぽいとか、どっかで見た流れの作品の味つけ異国情緒として、たとえば「キリスト教悪魔」でさんざんやられてきた話を「異国の似た魔物」でやる、というだけのような感じだ。
ホラー以外のジャンルのフォークロアモチーフものだと更に「ただ美男美女やマスコットを妖怪や怪物にしてるだけ(で、そのモチーフとなった怪物としての意味や元ネタに関係ある描写すら組み込まれていない)」事もザラだ。

勿論、元ネタ探しとか、名前や外見引用だけというのが別に悪い作品の所業!というわけではない。
私としてもそういったライトな“フォークロア元ネタ”系もホラージャンルの味変的に楽しいものではあるのだが、本作『ザ・ウォッチャーズ』はモチーフを伝承に求めるだけにとどまらず、その伝承の咀嚼や表現、そしてデザイン面に至るまで、緻密で重厚な敬意すら感じさせる。
詳しい人が絡んだか勉強したんだな〜よく調べてるな〜、とかよりも、表現と創作と元伝承の扱いつまりブラッシュアップに感じられたのは更に上の質感だ。

サスペンスと思わせながらも緩やかにダークファンタジーにかじを切る物語を、暗く不穏に切り取るカットの色彩や建築、小道具の雰囲気も綺麗で、密室モノとしては「全員の良いとこと悪いとこがバランスよくて見やすい」キャラクター達も好印象。
勿論、閉じ込められっぱでいて今まで誰一人気づかなかった地下室(笑)とかツッコミどころが無いとは言えないのだが、楽しい映画とはツッコミどころさえ大きな問題でなくなる(スターウォーズ宇宙の物理的矛盾が気にならない程SF好き達さえも熱狂した、等)とどこかで聞いたことがある。
私にはまさにこれくらい楽しかったのだろう。

作中さりげなく出されている「変身願望」「動物園」「ものまねインコ」「双子」「黄色い服でオウム返し」
といった
“誰かを真似る”
“生き写し”
“違う者になりたがる”

事へのメタファー的表現も、考察や説明を他所に求めるまでもなく、観ていく中で自然な噛み砕きによって気づいた時にストンと心の中に落ちてくる。

ラスト、姿を現した“それ”は、凄まじい怪物めいた外見でありながら、その存在そのものと真の姿になれた理由を思うと、おぞましいほどの異形なのに涙が止まらない程荘厳に美しく映る。
そして「二人」はそれぞれに、他の誰でもない自分自身として生きる道へと踏み出していく。
希望に満ちた結末が輝かしさ、けれどあの森とあれらはまだこの世界に存在する恐ろしさ、それらを同居させながら物語は終わり、映画でも描かれていた深い深い地中の暗さを思わせるエンドロールがまるで絵本のように――負の歴史を空想のようにしてしまっている人間達の現実のように――どこか哀しい。

一次資料ありきの民俗学を文化面で非常に重んじ、その上で二次的創作(≠文化侵食の歪曲捏造)や流行りやフォークホラーを愛する人間の私個人としては、作品世界だけでなく、我々の生きてきた世界の伝承の中にいるものも大切に大切に作られた印象を噛みしめられる素晴らしい作品だった。

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