【本】金間大介『先生、どうか皆の前でほめないで下さい―いい子症候群の若者たち』0598/1000
X(旧Twitter)アカウント、社労士労働実務事例研究会(https://x.com/shajituken?s=20)の朝のスペースで話題になり、手に取った本。
話題になったのは、「ここでは成長できないから」と会社を辞める若者たちについての話から。
私なんかは、「ここでは成長できない」という若者を目の前にしたら、「自分を成長させるのは自分の力であって、かならずしも環境じゃない」と言いたくなってしまう。
だが、この本のおかげで、そう言っても絶対伝わらないだろうことを知った。
良し悪しではなく、そもそもが違うのだ。
その「違う」ということをわかっていなければ、悲劇が起こるかもしれない。
そういう意味で、20代以下の若者に接する可能性のある40代以上の大人は、本書は必読の本だと思う。
1.今の若者の価値観
この本は途中で装丁が若い子向けにかわっているが(Amazonの装丁はそちら)、もともとは表紙に文字だけのシンプルな装丁となっている。
その袖(表紙をめくったところ)にはひとつの設問がのっている。
この設問への1998年頃の日本人の答えは、男女とも、④努力に応じた分配が1位だったという。
一方、大学教員である著者が、2018年から2年ほどの間の大学生に対して尋ねた結果では、なんと、①平等分配が1位だったとのこと。
(この「なんと」というのが、そもそも私のバイアスである・・・)
若者は世界的にそうなのかというとそうではなく、サンプル数は少ないものの、アメリカでは③実績に応じた分配が1位だったということだ。
つまり、日本の若者には、競争を非常に嫌い、完全一律な平等を好むという特徴があるということになる。
この本は、こんなふうに、毎日大学教員として若者と向き合っている著者が、若者たちが考えていること、また、なぜそう考えるのかを知りたいと思い、たくさんのアンケートや問答を繰り返して、その答えを探っている。
そこからわかるリアルな若者の価値観を、大人は知っておくべきだと思う。
なぜなら、いい子である若者たちは、自分たちのそういう価値観を大人の前で出すと、否定されるとわかってしまっているから。
そんな状況で、リアルな本音を言う訳はない。
だから、私たちがリアルな若者の本音を知るためには、こういった回り道がどうしても必要となるのだ。
2.私がこれからしたいこと
うちにも、23歳と19歳の娘という若者がいる。
上の娘はもう独立しているも同然なので、心では応援しながら、必要なときにリアルなサポートをするだけだが、一緒に暮らしている19歳の娘には、つい、大人の目線で口を出したくなってしまう。
「You Tubeばかりみていていないで、もっと他にすべきことがあるのでは?」等。
だが、そこにはそもそも「べき」の大きな違いがある。
私は、無意識に娘の在り方を否定しようとしていたのかもしれない。
それをこの本で痛感した。
これから、もし口を出すことがあるとしても、「それは私の価値観で、娘の価値観は違うかもしれない」という前提で、個人的意見として述べようと思う。
また、この本で耳が痛かったのは「日本人はポジティブな共助が苦手」ということ。
著者は、国際的な調査で、日本人の「黒さ」が見える化されているという。
「見知らぬ人を助けたか」という問いに対し、「はい」と答えたのは、125か国中、日本が最下位だったというのだ。
ここから、著者は、「集団の規模が大きければ大きいほど、不確実でチャレンジングな課題直面した場合に、集団の愚に陥りやすい」という研究結果をあげ、「ましてや同調圧力の強い日本人は」という。
困っている人がいたらすぐに声をかけることができるような、強くて、だからこそ優しい心をもつ。
そのためにどうすればよいか、ということを、著者は述べない。
もちろん、自分がそれをもちたいと思うなら、もてばいいだけだからだ。
私は、読んでいて自分が恥ずかしくなった。
若者の価値観をうんぬんするまえに、まずは自分を変える、そこからだ。
ちょうど、いまは外国人からの観光客も多い。
カタコトだが英語をブラッシュアップして、「May I help you?」と声をかけてみようと思う。
3.著者の文体と目線が最高!
この本は、非常に知るべきことに満ち溢れており、貴重な本だが、著者の軽妙でわかりやすい文体により非常に楽しい読書体験ができるのも、特筆すべき点だ。
こんなついつい引き込まれてしまう現場の描写が多く、つい笑ってしまう。
楽しい文章を読みたい!という意味でも、非常におすすめだ。
また、胸が熱くなる文章が読みたい、という点でも。
本書の最終章は、若者たちに向けての、軽妙であり、かつ、渾身の応援メッセージとなっている。
だが、最後のこの文章に、私は、著者は大人にも力を授けてくれている気がした。
まるで、ティンカーベルが大人にも魔法の粉をかけてくれたように。
成長を、自分比較で、意識的に感じていく。
若いうちだけじゃなく、いつまでも。
「成長できない」を人のせいにすることなく、自分を研いでいきたい。