投資を集めるためのSASB(サスビー)業種別資料で人的資本の優先順位を見る
人手不足を背景に、「人的資本」という言葉がかなり広まってきているように思います。
近年、企業の価値は、貸借対照表や損益計算書など財務諸表だけでははかれず、そこにあらわれない部分、たとえば社員の能力なども含まれるのではないか?ということで、「非財務情報」が重視されてきていますが、「人的資本」はそのひとつです。
「非財務情報」をチェックする国際基準の資料は複数ありますが、今日は、SASB(サスビー、Sustainability Accounting Standards Board=米国サステナビリティ会計基準審議会)の「マテリアリティマップ」を見てみましょう。
これを取り上げる理由は、ESG経営を理解するうえでも重要な事項となっていること、マテリアリティ(組織・企業にとっての重要課題、非財務情報のひとつ)が業種別に示されており、人的資本経営がイメージしやすいからです。
課題は3種類。詳細は以下のとおりです。(以下、内閣官房の資料より)
1.労働慣行
・労働組合において団体賃金交渉の対象となる労働力の割合
・平均時給
・離職率
・労働法違反に伴う法的手続きによる金銭的損失
・ハラスメントを防止するための方針/プログラムの説明がされているか
2.従業員の安全衛生
・致死率
・急性および慢性の呼吸器系の健康状態を診断、監視、軽減するための取り組み
・労働者の健康被害への曝露を減らすための取組
・喫煙が許可されている場所で働く従業員の割合
・従業員の安全衛生違反に伴う法的手続きに伴う金銭的損失の金額の記載
3.従業員エンゲージメント・ダイバーシティ&インクルージョン
・ジェンダーと人種
・民族グループのそれぞれの割合
・雇用差別に伴う法的手続きに伴う金銭的損失の額
・人材の採用と維持への取り組みについての議論
業種により、これらの重要課題に優先順位をつけたのが、SASBの資料です。
1.労働慣行
消費財、抽出物・鉱物加工、食品・飲料、インフラストラクチャー、サービス
2.従業員の安全衛生
抽出物・鉱物加工、食品・飲料、ヘルスケア、インフラストラクチャー、再生可能資源・代替エネルギー、資源転換、サービス、技術・通信、運輸
3.従業員エンゲージメント・ダイバーシティ&インクルージョン
消費財、金融、ヘルスケア、サービス、技術・通信
この3つがどれも必要だとされているのがサービス業で、もっとも広い目配りが必要です。
従業員の安全衛生が重要課題となっているのは、やはり、製造業をはじめ機械や薬品を扱う業種です。
もちろん、すべての重要課題に目配りがきくのが一番ですが、なかなかそうはいかないのが現状です。
このSASBの「マテリアリティマップ」は、ひとつの優先順位付けの根拠とできそうです。
このような資料をもとに、非財務情報の開示を適切に行えば、投資家から資金を集めることにも有用です。
中小企業でも、優先順位の参考資料として、把握しておきたいところです。