とある小説を→短歌に翻訳して→小説に逆翻訳したら、こうなる。(#ハヤブサの群れ やりました。)
はじまり
ハヤブサの遊び方 #ハヤブサの群れ ver
さっそくハヤブサで遊んでみる
① あつまったものずき: みやり と 立夏 と ゆきんこ(New!)
②一人が青空文庫にある小説を短歌に翻訳し残る二人に伝える
ゆきんこが原作小説を短歌にしたもの
短歌をもらった時点のみやりの分析
みやり:
字余りの溶けるまでと溢れる震えが繋がるように感じる。ダイナミックな感情の波形。
あとは白い息から冬、または寒地が読める。風の叫びに溶けるまでという記述には涙を流した人物は少なくともここの冬は初回では無さそう。溶けるだろうかとかそういう感じではない。溶けることを知っている。
時系列に関しての読みが難しいけど溶けるまで、という前述から、何かの喪失に対しての憂いみたいな、過去に対しての思いも読み取れる。
ただ素直に読むなら過去は絡まない気がする。ここはもう少し深くしないとだめかも。
白い息 ささやく微笑 言の束というところから、微笑をした人物は物静かな印象。むしろ別れの時の数少ない言葉が束になるようなイメージ。
強烈な離別の印象を、字余りの溶けるまでが希望で彩っているようにも感じる。
それでは逆翻訳を見てみましょう。
③残る二人は元の小説が何かを知らずに短歌を読んで、小説を逆翻訳
※今回は原作小説を最後に記載します。皆様も是非何が原作か予想してみてください。
みやり版逆翻訳小説
雪が降ると街が静かになる。水の底に沈んでしまったかのような静寂。カーラジオの電源を入れる。
後部座席に座る息子を気遣いボリュームを下げる。流れてきた陽気なタレントの笑い声が幾分か気を紛らわせてくれた。
先程からターミナル駅に繋がる山間の国道にて大雪による立ち往生を食らっている。
かれこれ三時間ほどだろうか。様子を見るために外に出て、周囲のドライバーと会話をしたが、いずれも諦念が滲み出ていた。わたしも「参りましたね」なんて返したものだが、その実、安心していた。この車が駅に到着したら息子は反対活動の夜行列車へと飛び乗る。
「寒くないか」
声をかける。
「……」
返事はないが、軽く服が擦れる音がした。
「友達には連絡したのか」
「……うん、駅で待ってるってさ。電車もダメみたい」
「そうか」
再びの沈黙。カーラジオからは芸人があきませんな、あきませんなと騒がしい。
「大学のサークル、何にしたんだ」
「……べつに」
不機嫌そうな返事が返ってくる。空気がより冷えたように感じる。進むわけもないのに、ハンドルを何度か握り手を遊ばせる。ラジオはゲストタレントの登場に一層の盛り上がりを見せている。
「父さんはいいのかよ、家が無くなっても」
「……そりゃあ、さみしいさ」
「さみしいってなんだよ、あるだろ、もっと」
「おれは……、もう終わったから。ないんだよな。自分への無敵感みたいな、そういう強さ、ひたむきさというか。もう、なんだろう、降りたんだよ。そういうのからはさ。そういうのは、特権……ではないか。なんだろうな。でも、いずれにせよもう難しい」
「そうかい」
ぶっきらぼうな返事が後部座席から返ってくる。何か言葉が必要なような、言葉をいくら尽くしても埋められないような、そんな空気を感じる。
「……ねぇ」
また声をかけられる。
「なんだ」
「ダムができて家が無くなったらどこに住むのよ」
「なんだよ。それを止めるために今から行くんだろお前は」
「そうだけどさ」
「そうだな……もう歳だし、駅近くのマンションとかのほうがいいかもしれないな」
「マンションだともうギター弾けないよ」
「うん。でもいいんだ。のんびりやるさおれは」
「捕まるかな」
「大丈夫さ、話をしに行くだけだろ」
「話ってか、デモだけど」
「届けも出してるんだろ。大丈夫だよ」
「なんで」
「うん?」
「なんでギターを始めたの」
唐突な質問に、答えあぐねる。
考えがうまくまとまらず、指でハンドルをトントンと叩く。ラジオでは、ゲストタレントがどうして芸能人になったのか、という質問に対して、自分に何かあるんじゃないかと思っていたと語っている。
「おれも、自分に何かあるんじゃないかと思ってたのかもな」
「……なにそれ、困るんだけど」
「はは。そうだな。でも、なんだろ、母さんと一緒になって、お前が産まれてからあんまりそういう熱みたいのもどこかにいってしまったな、口座の残高見て青ざめてばかりでさ」
力無く笑う。後部座席からの反応はない。雪はしんしんと積もり、立ち止まる車たちを覆っていく。この冷たさも息子の熱を奪うことは無い。
さっきのは、失望されてしまっただろうか。ラジオは話題の映画について盛り上がりをみせている。車内の冷えた空気に比べ随分と楽しそうだった。映画館に最後にいったのはいつだっただろうか。息子がなぜ自分で車を出さずわたしに頼んだのかもう少し考えた方が良かっただろうか。歳のせいか最近はうまくものを考えることがまとまらない。冷えていくからだを元に戻す熱はどこかにいってしまった。からだはとうに生きることを副業にしてしまった。
唐突に前方から大声が聞こえてくる。慌ただしい雰囲気。どうやらこの渋滞に進展があったらしい。
「ちょっと様子を見てくる」
マフラーを首に巻き後部座席に一声をかけて外に出る。ドアを閉めるその瞬間、息子の雰囲気に不安そうなものを捉える。少し悩み、後部の車窓ガラスをノックした。
「なに、行かないの」
開かれた窓ごしの声は小さく感じる。
「寒いだろう」
巻いていた自分のマフラーを手渡す。肌寒いが耐えられないことはない。受け取る息子の手は少し震えていた。
「なんだ。怖いのか」
返事は無い。
「おれも少し怖い」
笑いながら震える手を見せる。あまりの寒さに歯の根はガチっ……ガチっ……と鳴り始めていた。息子はその様子を見て、はにかんだように「閉めるよ」とだけ答えた。
切り裂くような朔風が首元から体に入り込んでくる。思わずぶるりとする。
空を見やる。この雪が止んだ頃に、きっと朝がくる。あの真っ赤な朝焼けがやってくる。息子が生まれた時、目にしたような。涙が止まらないような。そんな朝焼けがきっとくる。そうしたらこの車は駅に向かってただまっすぐへと進む。ただただ、前だけを向いて。熱を二つ乗せながら。
いかがでしたでしょうか。立夏さんのバージョンの逆翻訳小説も掲載されています。原作小説発表の前にそちらもよろしければ併せてご覧ください。
④原作小説発表&三人で感想戦
まずはゆきんこの感想
ゆきんこ「目の前にせまる喪失、大切な存在に対する父と息子の熱の対比が、読んでて泣きそうになりました。おそらく喪失からは逃れないだろう未来に、希望を感じさせてくれるラスト。読後、希望という余韻が雪を溶かしていく時間が流れてました。」
原作小説発表
ゆきんこ「原作タイトルは、『雪女』 小泉八雲/著 です!」
好きな人の癖を盗もうぜ
みやり「早速ご質問をさせてください。短歌作る上で意識したことや苦労したこと、作ってみて良かったなと思うことなどききたいです! わたしと立夏さんの初見読みでも、情報はよく似ていて、風景が渡っているのがすばらしいなと感じました。短歌前と短歌後の物語の捉え方変わったかとかその辺も聞きたいかもしれない。」
立夏「名インタビュアーみやり!」
みやり「ゆきんこさんの書く文章の良さを盗みたのいので前のめりになりました。すみません。」
立夏「ゆきんこさんの文章の良さを語りつつ、良さをあわよくば盗む会をここに展開しようぜ!」
みやり「はい!」
立夏「早速逆に聞いちゃうけど。みやりさんの思うゆきんこさんの盗みたさってどの辺りなんでしょう?」
みやり「どこにも属してないところと、常に距離感が保たれているところですかね。言語化下手ですが。うーん、もう少し言葉を尽くしてみたいのですが他に出てこない。すごい良いですね。滅私というのでは無いと思うのです。淡交っていうのかなあ。」
ゆきんこ「今回の短歌に限らずですが、文章を書くときは、読み返したときに我(が)を感じないように気をつけています。」
立夏「滅私奉公みたいですね。どちらも初めて聞いた言葉です!」
ゆきんこ「何度も読み返して、自分をなるべく消すようにしています。みやりさんの言葉を借りると、書いたものをなるべく滅私したら淡交になった、という感じでしょうか。」
みやり「背景までご説明くださってありがとうございます。」
ゆきんこ「感情表現はとくに苦手なので、動作だけを淡々と書くとか、風景や空気感を書いて代替表現しています。」
みやり「わたしはもともとゆきんこさんの文章のファンなのですが、その理由の一つが解き明かされてうれしくおもいます。わたしのおともだちにも書かれた文から立ちのぼる「私」の輪郭を忌諱する方がいるのを思いだしたりしました。」
短歌から考えたこと
みやり「わたしがいただいた短歌で最終的に思ったことは、熱の移りかわり、でした。白い息、とか震えとか寒いモチーフが出ているのに、この短歌の中の人たちは言葉を尽くしているんですよね。これは結果的には雪女という怪異が下地にあるからだと思うのですが、わたしはそこまで至らず。砕けて言うとなんでこの短歌の人たちはこんな寒いところでずっと喋ってんだろうみたいな。」
ゆきんこ・立夏「……(聞いている)」」
みやり「この言の束はいったいなんだと、たぶん出ていってしまう方がいるのはわかるんですけど、なんだろうな、なんか理由があるからこんなにも寒い思いをしているんだろうなと思いまして、あ!それって熱じゃん。という。熱いおもい、ってやつですね。そこから凄いしっくりきました。熱がこう、違う二人がいるんだなという」
ゆきんこ・立夏「……(聞いている)」
みやり「なんで、冒頭の感想をいただいてうれしいなーと思いました。雪女を深読みしたことはないのですがそこまで的外れした感じでもないのかな。どうなんだろう!」
ゆきんこ・立夏「……(聞いている)」
みやり「イキってわたしばかり喋ってしまいすみません。もうしません。」
雪女どこいった
ゆきんこ「今回、父と息子のお話ですが、なぜこの設定にしよう思われたのですか?」
みやり「短歌いただいた直後の所見の通り『強い別れ』『大きく異なる立場の二人の別れ』をベースに復元していこうとおもいました。特に『立場の違い』ってのは難しかったです。言の束が伴うっていうのは、もう会えないかもしれない、言葉を尽くしてもそのような結果になってしまった、そんなイメージですね。宇宙戦争にいくとか。で、今生の別れレベルですが片方は行かないぽい。たとえば同学年の同い年の親友とか、そういうのでは無いなと。で、男女の別れか親子の別れかなと絞ったのですがここからは大変でした。直感では男女の別れとも思ったんですが、なんだろう。色めきのようなものがないんですよね。全体に漂うは白だし。他に色がない。色がない男女の別れっていうのは、壮年かなと。であれば変に男女で絞るよりかは、家族の別れの方がより近いのかなと。」
立夏「大河みたいな執筆ですね。」
みやり「でまぁすごい寒いところの屋外で言の束を尽くすとみんなかわいそうなので。屋内ですね。冗談です。そこから先はぼそぼそとしゃべる二人の様子が連想されました。文字数が2,000文字制限なので、会話の積み重なっていう様子はラジオとか、外部の要素に頼ろうかなと思いました。ここで父と子の別れ、車で送る。ドライブインマイカーですね。見れてないです。」
立夏「見れてないんだ。」
みやり「これで1,800文字ぐらいまで行けたんですが、そこで筆が止まってしまいました。結局この話は何が言いたいのかいまいちわからなくて。何が行われているんだろうって、腑に落ちなくて。結局悩みに悩んで、『熱』だなと結論づけました。」
ゆきんこ「熱の対比は感じました。」
みやり「字余りの溶けるまでがヒントですね。人間関係においての熱や個人の熱、そういったものが冷めていく無くなっていく、人から人へとうつりゆく。そういうところを短歌に感じていたのだなと。寒いというのは熱を奪われるところだな、とか。溶けるほどの熱があるような別れだったりとか、そういう単純なエネルギーですね。で、その熱量の違いや大きさってのが、冒頭の大きく異なる二人の流れと繋がりまして。わたしはこの短歌をこのようによんだのだな、と腑に落ちて脱稿です。乾杯。」
立夏「いやあ、分かるよ、この旅路。」
みやり「自分の国語能力を再点検させられるのに近いですよ。車検と化している。喋りすぎました。殴ってください。」
どこに重きを置いて読むか
立夏「みやりさんの今の壮大な読解を聞いてはっきり分かった。みやりさんはゆきんこさんの短歌を、物語の下地となる状況に当て込んでいったんですね。物語冒頭から時間のスキップや場所のワープはないので、短歌の描写は風景または写真のようにずっとある。」
みやり「短歌の風景をそのまま閉じ込めたかったのかな。」
立夏「短歌描写をすべて風景に集約して、まずはそれがそのままあること。その上でその風景に似合う人間たちを考えた箇所が、みやりさんの創作箇所というか、翻訳短歌には書いてない部分。書いてないまでいうと厳密には違うか。その風景に立つことが成立する人間関係みたいなものを、みやりさんなりの感覚で探ったわけですよね。書いてないけど、みやりさんは、書いてあると感じた。」
みやり「こちら言語化代理士の方です。ありがとうございます。風景というものはご指摘の通り、短歌から一番受け取った情報かもしれません。」
ゆきんこ「みやりさんありがとうございます。短歌からここまで読み込みを行なっていて、すごさのあまり呆然としてしまいました。背筋が伸びる思いです。そして、お二人の読解と解説のすごさに畏怖を感じて震えてます。」
みやり 「恐縮です。精進します。」
自由に読んでね
みやり「今回の雪女、簡単に定義すると怪奇、ホラーの類ですよね。この点に関してわたしは読み込みが少し足りないなと反省があります。(雪女という)この極寒ステージを結局、風景の一描写にしてしまったのですよね。大事なファクターであるんですよ、全編に渡り寒いのだから。そこをなんだろうな、うまく捉えられなかったみたいなところが反省点でして。」
みやり「ここからゆきんこさんへの質問となるのですが、雪女という怪異ですね、この辺はどう処理するというか、短歌にするときに悩まれたりしましたでしょうか。」
ゆきんこ「上の句では妖怪の雪女の姿を下の句では一人の女性の、人としての生が終わるところを詠みました。個人的にみやりさんの作品は下の句、立夏さんの作品は上の句の印象を強く感じます。」
みやり「確かに下の句に惹かれてますねわたしは。」
ゆきんこ「上の句の怪異の表現は、妖怪(雪女)は人智を超えた存在なので、人の知識や知恵では理解できない。なので、言葉が途切れ途切れに伝わる感じを、間隔をあけて区切りました。」
みやり「(下の句は)なんかスペース詰まってるし口に出した時に勢いがありますよね。職場でブツブツ呟いてたんですが。」
立夏「話してて自分も言語化できてなかった部分が整理できて来たんだけど、今回のみやりさんの逆翻訳小説を読んだ上でこれまでの(みやりさんの)作品を振り返ると、作家の中に色んな設定や世界観の正解がありそうなのにそれが意図的に隠されている感覚があったかもしれない。」
みやり「なるほど。」
立夏「モチーフが多くて、それらの手掛かりを不整合なく紐付けられるのは作者のみやりさんだけというか、正解があるのに教えてもらえない感覚。今回も状況は隠されているんだけど、具体的なモチーフはデモ以外ないという仕上がりで、読み手が自分だけの正解を自由に状況設定できる物語だと思う。多分、ゆきんこさんと私の中身の印象全然違うもんね。初めて『正解なんてないんだよ、自由に読んでね』って、みやりさんの口からではなく、作品から言ってもらった気持ちになっています。」
みやり「いやー平伏。ありがとうございます。」
立夏「今回、何も書いてなくて、そこがどタイプだった。何も書いてない。文章の優劣みたいなものは、最早私には分からないです。ただ書き方の作風はみやりさんのまま、書いている対象がいつもと全然違う。いつもは人間関係。今回は風景。(とその風景の上に立つ人間)普段のみやりさんの小説の方が好きだという人もいると思う。でも、私はこれが好きです。」
みやり「ありがとうございます。次の小説の主人公轢死体の予定だったのですが誰か早く列車を止めてください。主人公が轢かれる前に。ありがとうございました。」
ありがとうございました。
立夏さんが執筆したバージョンもありますので、ぜひご覧ください。
逆翻訳元の短歌は、同じゆきんこさん作のものとなります。いつもよりはっきりと違いを楽しめると思います。
短歌と掌編小説と俳句を書く