マガジンのカバー画像

出来損ないな小説一覧

8
出来損ないな自作小説です。
運営しているクリエイター

記事一覧

勇者ノベリットの冒険(抜粋版5)

「やれやれ、やっと来たのね。遅かったじゃない」

そして老婆はそう呟いた。
ノベリットは一度頷くと、

「すまない、ヴァンダール。途(みち)が分からなかった。つい先程までは」

と老婆に告げ、軽く頭を下げた。
その様子に老婆――ヴァンダール――はふふっと口元を歪めて微笑んだ。

「まあ、仕方ない。『夢に届くのはそれを信じる者のみ』だからねえ。でも、大したもんだ」
「何がだ」
「あんたは『自分の夢』

もっとみる

The Refugee(音楽小説連作第6章)

彼女の母親は、いつも疲れた顔をしていた。
母親が俯いていない姿を彼女は見たことが無かった。
だから自然と彼女も同じように俯くばかりの姿勢が身についた。
下を見る生活。
地面に向かう人生。
そこには決して空に向けて開けるような明るい兆しなどは、どこにも見当たる事は無かった。
人は社会的な生き物であり、社会はそこに住まう者に対して潤滑油を要求する。
社会の潤滑油、すなわちカネだ。
単純な事実なだけに、

もっとみる

ゼペットじいさん(未完)

 1

約半年にわたった戦いを終えて、以来僕は心から脱力し、ほとんどここで座り込んでいる。
手にしたモノとはカネと、それに伴う自由と、『無気力感』だ。
ああ、ついでに『ひきこもりになる権利』をそれに加えても良い。

この裁判を経て僕に与えられたモノは正当な権利だったと思う。
僕は会社のために粉骨砕身働き、利益を上げ、求めには誠実に応じてきた。
だからこそ僕が作り上げてきたソフトウェアには正当な対価

もっとみる

最後の魔女

1 ある会話

少年はまたそこを訪れることにした。
切り立った山の向こうに、その『ほこら』はある。
そこは『禁忌の地』だ。
彼の所属する『集団』には、そこに行くことは決して許されてはいなかった。
少年は身軽に、少しの危なっかしさもなく岩と岩の間を飛び越え、その間に汗もほとんどかかないままだった。
やがて辿り着いた岩山の切れ目に身を滑り込ませる。
陽射しが届かなくなると、そこは完全な暗闇に包まれる。

もっとみる

勇者ノベリットの冒険(抜粋版4)

「『延べ川松左衛門』・・・奴か、奴なのか?!」
そう呟いたのは、連載がここに至るまでまったく影も形も見たこともなく、唐突に現れた禿頭のおっさんだった!!
「あ、あなたは?!」
ノベリットが何かに心底ホッとしたように呼びかけると、その禿頭の男は
「ふふふ・・・私は延べ川松左衛門を仇敵として追う男・・・」
なあんてかっこ良くニヒルに言っちゃうんじゃない!
「わんわんわお?・・・(およそ五ヶ月ぶりの更新

もっとみる

勇者ノベリットの冒険(抜粋版3)

『ク』というのがそれに最も近かった。

ノベリットが『そこ』を向いていたのは偶然に過ぎない。
世界を覆いつくしたのは『光の触手』であり、
邪悪な意思であり、
蠢きであり、
『死』そのものであることは、
『それ』に触れ、
見ただけで一目に、
圧倒的に、

有無を言わさず理解させきるだけの圧力と迫力があった。

『ク』とはノベリットが聞いた音のことで、
目の前で折れ腹を抱える『マナ』の姿で、
彼女の身

もっとみる

勇者ノベリットの冒険(抜粋版2)

「あれは何だろう」
ノベリットはぽつりと呟いた。
一同が見るのはノベリットの視線の先、広がる大空の中の深緑色をした『しみ』の方だ。
それは日頃空を閉める蒼でもなく、鈍色の湿り気をたっぷりと含んだ雲の様でもない。
夜の漆黒でもなければ宵に入る際の燃え尽きる太陽がかざす紅炎でもない。

誰もが言葉を失っていた。
理由は他でもない。
それが常識を外れていて、およそ誰もが生涯で見たことがない異態であったか

もっとみる

勇者ノベリットの冒険(抜粋版)


世界を『紡ぐ』のは何であるのか。
その問いに立ち返るなら、『人』と答えるべきなのだろう。
あらゆる命に意思があるなら、あるいは、
あらゆる存在に意思があるなら、
その観測する数多の事象は、ただそこに在るだけなのに、意味を見出そうとするものは、万物において『人』のみに過ぎないからだ。

故に人は紡ぐ。
他者と己の物語を。
故に人は問う。
他者と自分の均衡とその差異を。
故に人は問う。
己が何者で

もっとみる