酒が飲みたいわけじゃない、気分に合うのが酒だった
ちょっとしたセルフネグレクトみたいなものだと思う。専門用語的には間違っているかもしれないけど、「自分を労る、自分にいいことをする」セルフケアの反対。失恋を引きずっている間はこの状態に陥ってしまった。
落ち込んだ時、心身が疲れてしまった時、とにかく「栄養のあるものを食べて、早寝早起きをして、適度な運動をする」ことが何よりも大事だと言われる。本当にそう。まずは体が健康でなければ心も健康になれない。そして健康への近道はなくて、地道に、小学校で習うような基本的生活習慣を整えるしかない。
こういうことを理解しているし、自分が何をしたら元気になるか、私は比較的わかっている方だと思う。普段は健康オタクなくらい健康に気を使うタイプなので、いつもの生活リズムに戻すだけでも心が落ち着くだろうとも想像がつく。
早く寝て早く起きて、緑豊かな公園まで歩き、朝日を浴びながらヨガをする。丁寧に淹れたコーヒーを飲みながら冴えた頭で読書をする。こんな休日がどんなに美しいか、気持ちがいいか、わかっている。
でも、まっすぐ家に帰りたくなくて、お酒を飲みながら味の濃い料理を食べて、スマホで興味のないSNSを見て、気づいたら就寝予定を2時間も過ぎていて、ようやく寝ようと思っても寝付けなくて、だから朝は起きれなくて、、、気がつけば今日も夜が遅くなる。そんな繰り返し。悪循環を抜け出す方法はわかっているけど、やりたくない。そんな気分だった。
私はヤケ酒をしたことがない。お酒にあまり強くなくて、酔っても「記憶がない」とか「何も考えない」とかいう理性の飛んだ状態に辿り着く前に、眠くなるか具合悪くなる。「嫌なことを忘れたくて、解放されたくて酒を飲む」ことはなかった。
でも、今回の失恋期間は、ヤケ酒的な気分でお酒が欲しくなった。飲んでも何かを忘れられるわけじゃない。だから大量に飲みたいわけでもなく、料理に合わせて1〜2杯飲めば十分だった。「落ち込んでいる」という気分に合うのが、お酒だった。
仕事終わりや予定のない休日に、すぐ家に帰らずにどこかで時間を潰したい。でも読書や勉強、運動をするようなモチベーションはないし、映画やらカラオケやら、積極的な娯楽を楽しむほどでもない。
外食は、受け身で程よく楽しめた。
食欲や味覚が変化した影響もある。振られてからしばらく食欲が薄れ、唯一食べたいと思うのは味や刺激の強いものだった。韓国料理、火鍋、餃子、パエリアにビリヤニ。もともと好きだけど、特に偏った。普段はお昼にスパイシーなものを食べたら、夜は家で野菜と納豆を食べるような生活だったし、外食でも繊細な味付けの和食も好きだったのに、この時は納豆なんて全然食べたくなかった。こんなわけで刺激強めの料理とお酒にたどり着いた。
他に落ち込んでる気分でやめてしまった習慣。
①自炊。面倒だし自炊するような地味なメニューを食べる気がしない
②部屋に飾る花。お店に行ってもピンとこない
③恋愛が絡む物語(小説、映画、ドラマ)。色々考えちゃうので摂取したくない
④恋愛関係なくても本。読む気力がない
⑤寝る前のフォームローラー。ただめんどくさい、逆になんで今まで毎日できてたんだろう
⑥平日の仕事前後のヨガやピラティス。それどころじゃない
⑦夕食後にデザートを控える。毎日、帰り道にコンビニでアイスを買わずにはいられない
こんな生活でも、食べる量が少ない間はしばらく体重は減っていて、(明らかに健康的ではないとわかりながらも)まあいっかと思っていた。ただ、徐々に食べる量も戻ってきて、気づいたら「栄養が少なく、脂質の高い料理をたくさん食べる」というただのデブの食習慣ができあがり、運動も減っていて、すごい勢いで体重が増え始めた。
少しずつ生活を元に戻そうとした。週末に旅行や友達との用事を入れて早起きした。納豆も食べてみればやっぱりおいしい。平日夜にピラティスを予約すれば飲み歩かずに済む。図書館や本屋に行けば読みたい本はある。クリスマス気分の赤い花を部屋に飾りたくなった。
ようやく、2ヶ月くらい経って、全てが戻った気がする。夜のアイスはまだ食べちゃうけど。
はじめは「こんな生活ダメだ、早く戻さなきゃ」と足掻いていたし、戻れない期間がすごく長く感じたけど、今振り返れば2ヶ月で戻れたなら案外いいじゃんという気もする。途中から、自分を俯瞰して「今はこんな気分なんだね、じゃあできるところから戻そうか」と思えるようになってよかった。
早寝早起き野菜運動読書よりも、夜更かしお酒外食SNSでしか生きられない時もある。そんな期間があってもいいじゃないかと思える一方で、歯止めが効かなくなったら怖いとも思う。そのためには、「早寝早起き野菜運動読書がいい」という価値観が根底にあって、普段はそれを維持していることが大切な気もする。健康オタクでよかった。