無駄にこそ宿るよろこび
きさらぎ駅から帰還した。祭囃子が聞こえてきたときはどうなることかと思ったけど、紆余曲折あって気がついたら渋谷にいた。
……なんて体験してみたいね!ちなみに私の好きな都市伝説は『くねくね』『地下のまる穴』『リゾートバイト』『コトリバコ』です。あとタイトル忘れたけどミッキーマウスマーチのやつ。旧2ちゃんねる都市伝説の有名どころは読破した。
本当のところは、単に急行に乗る予定が各駅停車に乗ってしまったというだけの話。約2倍の時間がかかるので、最初は途中駅で急行に乗り換えようと思った。しかし、一車両に数人のガラ空きの電車と秋の夜風に気分が上がってしまい、目的地である終点までそのまま乗っていくことに決めた。
むかし好きだった漫画の影響で少し憧れのある駅、大学時代にサークル活動のために通った駅などを眺め、過去を辿りながら夢見心地の30分。
昼間とは違う街の顔。一滴の非日常感に癒されて下車する。降りる出口を間違えた。ここどこや。
動物的勘を頼りに彷徨っていると治安の悪そうな活気に溢れる若者とキャッチの声。ああ、ここね了解。見覚えのある通りに出た。助かった。
方向音痴なくせに考えないで歩いてしまうの結構あるあるだと思っているのですが、私だけでしょうか。
そこからはいつも通り、馴染みの路線で最寄駅へ向かう。先日、30歳にして人生で初めて終電を逃し、還暦過ぎの親にねちねち怒られる情けない経験をしたばかりだったため、今日は速やかに帰宅しようと心に誓っていた。実際ラインが入っていた。「今日は余裕もって帰りなよ」。ママ、私もう10年大人やってるんですよ……
ひとつ手前の駅に到着。目の前のドアが開く。
刹那の天啓。
"ここで降りよ"
降りた。神の意思ならば仕方あるまい。
自宅までの約2kmを歩いて帰ることにした。
22歳、原因不明の不調に抗いながら運動不足とストレス解消のためによく歩いた道。あの頃はとにかく生活習慣を整えれば治ると思っていて、闇雲に歩き回っていた。そう単純なことではなかったんだけど。
久しぶりに一人で降り立つと方角がわからない。線路沿いに歩けばいずれ辿り着くのだが、左右どちらが家の方角か忘れてしまった。自分の海馬に一抹どころか百抹の不安を感じ、その場でぐるぐる回る。
結局、Googleマップ様に頼って方角だけ確認。左ですね。あゝ悔しい。
わざと大通りを避けて静かな道を征く。お化け屋敷みたいな日本家屋のある路地や陰気な廃屋のある住宅地を選んでゆっくり帰った。夜にふらふら歩くのが好きと言うと、よく不審者に遭遇する心配をされる。でも大丈夫。私こそ不審者なので。
夜散歩のリラックス効果は伊達じゃない。唯一のデメリットは今ヘトヘトなことくらいか。
仕事も遊びも人間関係も最短距離で済まそうとする私。でも無駄にこそ喜びがあるのかもしれない。無駄こそ人生。無駄万歳。
たまにはいつもと違う道を通ってみよう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?