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所詮、この世は「イカゲーム」なのか

Netflixのストリーミング数世界第1位記録を塗り替えつつある「イカゲーム」だが、このドラマの何とも言えないビターで、ブラックな世界観は、このパンデミックのなかの混迷する世界経済に、妙にマッチしていて、そこに大ヒットの理由がある気がする。

このドラマで、人間の本質について考えさせられたというレビューは多いけれども、わたしは、グローバル経済の人間性不在の仕組みについて、連想してしまうのだった。

1 「欲望」という糸で操られている経済

個人の「欲望」は目に見えない、そしてその種類も様々だ。なのに、どうして、お金という単位で、すべてが換算されてしまうのだろうか。
「イカゲーム」の参加者はみな、なんらかの事情で多額の現金が欲しい人たちだ。いわば、社会の「負け組」の人たち。そんな彼らだが、456億ウォンの賞金さえ手に入れば、「望み」がかなって、人生が逆転できる、と思い込んでいる。
だから、ゲームに勝つために、自分から命を懸ける。
しかし、それは、本当に、自ら望んだことなのかと考えると、そうではないことにすぐに気づくだろう。

それしか道はない。もう、そうするしかない。とそこまで、追い詰められてしまった人たちが、自分の命と「お金」を天秤にかけても、「イカゲーム」から降りられない。
そのゲームで勝ち残れる可能性は、ほとんどないというのに。

それは、まるで、このままではいけないと、わかっていても、利益という呪縛から逃れられない、グローバル経済をあらわしているように、わたしには見える。

2 先が見えないなら、リスクは取れない

このドラマに出てくる欲望の最大公約数である「手っ取り早くお金持ちになりたい」といのは、「先が見えないから、我慢する気になれない」の裏返しではないだろうか。

理想社会のあり方を模索していた経済学者が言っていた「最大多数の最大幸福」が、今や、「手っ取り早くお金持ちになりたい」というのも、なんとも皮肉な話である。
そこらあたりを、韓国経済の状況と格差社会のひずみとして書いているドラマ解説をよく見るが、日本だって、同じようなものなのだ。
日本の若者の間では、「今だけ、金だけ、自分だけ」の価値基準が、スタンダードになりつつあるのだから。

それは、裏返せば、自分と周りの人たちの未来のために、何かに挑戦したり、何かを創造しようと模索して、ともに連帯したりするという共同体の価値観を否定するものになっている。
それは、自分以外の者のために、何かをすることが、リスクを背負うことになるというこの社会の現実の一方の側面を描き出しているためなのだ。

3 ガンプ・・・お互いの持っているものを共有できるのは勝ち組だけなのだろうか

一般大衆の「持てざる者」が「自分だけ」の金を求めているのなら、「持てる者」である資本家と呼ばれる人たちはどうなのだろうか。

このドラマの登場人物である、オ・イルナムが、主人公を「ガンプ」と呼ぶシーンがある。「ガンプ」とは、自分の持っているビー玉を共有する友達のことで、仲の良い親友をそう呼ぶのだという。
このシーンで、この老人がただ者でないことに気づいた視聴者も多いと思う。なぜなら、この自分の持っているものを他人と共有するという発想は、今や資本家だけが持ちうる発想になっているからだ。

死ぬまでに使いきれないほどの富や権力を持った人たちは、かつては、自分のDNAを残すべく、血族・姻族による事業継承に躍起になっていた。

しかし、今までと同じことをやってればいいという時代ではなく、労働者階級が次代の労働力として子供を育てるのが大変なように、資本家だって、次代の経営者を育てるのが大変なわけである。
いくら自分が成功しても、2代目、3代目と続くにつれて、出来が悪くなるのは、古今東西、歴史的にみても明らかだ。栄枯盛衰、諸行無常である。

だから、「持てる者」である彼らが求めるのは、自分の理想や思想を託せる「ガンプ」なのである。自分の富や情報を共有して、さらなる価値を生み出せる「ガンプ」をいつも探しているのだ。

投資家が未来のGAFAになるようなスタートアップ企業を探しているように。

4 ガンプがいない庶民は勝ち残れるのか

まるで、弱肉強食の資本主義社会では、庶民は、「ガンプ」を持つことができない。それが、リスクにつながってしまうからだ。
先が見えないのに、そんなリスクは取れないのだ。

そんな孤立を強いられる庶民が勝ち残れる道はあるのだろうか。

このドラマの、エンディングは、シーズン2もあるなと思わせる終わり方になっている。Netflixのドラマでは、そういうエンディングであっても、制作の予定がないものはいっぱいあるが。
これだけの大ヒットなら、絶対に制作されるはずだ。
そこでは、この問いにどんな答えが用意されているのだろうか。
このドラマを観終わった後に残る、面白かったけど苦い余韻を、変えてくれるものであることに期待したい。


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松幸 けい
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