不惑の韓流女優シリーズ⑧キム・ミニ~恋したいという覚悟~
焦らない。闘わない。無理しない。恋したい。
彼女が一番望むのは、自分らしく生きたい、ただそれだけ。
しかし、その代償は大きすぎた・・・本当に覚悟するしかないのだろうか?
まさに崖っぷちに立つ キム・ミニ 1982年生まれ。38歳
韓国映画では有名女優だが、韓国ドラマしか見ないという方は、ご存じないかもしれない。でも、そもそも、韓流メロドラマにでているキム・ミニなんか想像できない。サスペンスドラマの犯人役ならあるかもしれないが。
キム・ミニは、韓国で数々の映画賞で、主演女優賞を受賞している。
しかし、彼女は、表現技術が優れている演技派俳優というよりは、体当たりで役を演じて、その存在感で見せる女優なのではないかと思う。
映画の中のキム・ミニは、女性のかわいらしさ、コケティッシュさ、一途さ、健気さ、危うさ、狡さ、弱さ、そして強さを、体当たりで演じて見せてくれて、それは、演技というより、素のキム・ミニ自身に見えてしまうところがある。
ホン・サンス監督の、キム・ミニ主演の映画を見ると、それがよりはっきりと感じられる。キム・ミニは、ホン・サンス監督のミューズだという人もいるが、ボッティチェリが描くようなミューズとは全然違う。映画の中でのキム・ミニは、男性からしたら、扱いに困るような女であり、賢くもあり、愚かでもある女として描かれていて、それはとりもなおさず、男の愚かさを映し出している。そこらあたりが、さすがにホン・サンスだ。
韓国映画界という狭い世界のなかで、ホン・サンス監督とキム・ミニが不倫を公にしたとき、先進的といわれる業界人は、こぞって二人に石を投げた。
映画監督と女優との不倫なんか、珍しくもないんじゃないのと思うのだが、他人の不倫を関係ない人たちが責め立てるのは、韓国も日本も同じなのだ。
しかし、韓国を追われるように二人は、「夜の浜辺でひとり」でベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞する。が、それで、不倫の二人を取り巻く状況が変わるわけでもなく、相変わらず、韓国では干されたままである。
ホン・サンス監督の妻が、離婚に応じないかぎり、有責配偶者である彼には、もはや打つ手がない状況だ。これから、二人がどうなるのかはわからないが、出口のない状況で、どんな作品が生まれるのかは、見てみたい。
韓国では、ほとんど上映されなくなったホン・サンス監督作品であるが、日本では、コアなファンがいて、映画館でも時々特集を組まれたりする。
キム・ギドク監督といい、ホン・サンス監督といい、映画監督にとって、映画マニアほど、国境を越えて頼りになるものはないのだなと思った。
「夜の浜辺でひとり」はよくも悪くも、あまりにも、極私的な映画である。
当然、好き嫌いがはっきりわかれる映画だと思う。
この映画を見て、何も考えずに、いや深く考えずに、不倫をしても、結果を引き受けるときは、覚悟をきめるしかないというメッセージを受け取るのか、いや、一度しかない人生、恋は後悔すら甘美にしてくれるととるのかは、その人、見る人しだいだと思う。