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シネマプロット「男だったら」
1.惜しかった歴6年の俺
川島祐二(24)は大学4年生。
もうすぐ夏休みにはいるというのに、まだ就職の内定をもらっていない。大学の成績もよく真面目な性格で、就職試験もいつも最終面接までいくのだが、なぜか最後で落ちてしまう。
いっそこのまま、大学院にでも進もうかとも考えるが、二年も浪人したうえに私立大学の学費を出してもらっている親にこれ以上の負担はかけられないと思い悩む毎日であった。
2.俺が頼られるなんて
川島をなにかと面倒みてくれているのが姉の富田祥子(35)である。
祥子の夫である富田秀明(40)は銀行員。入社以来何度も社名が変わる合併を経験してきたが、その都度なんとか生き残り、ようやく念願のマイホームも手に入れたのだった。
長年の社宅暮らしから抜け出し、富田夫妻が娘の麻衣13)の中学入学に合わせて引越してきたのが江東区豊洲の高層マンションである。
豊洲は再開発で整備された街並みが生活に便利なうえ、自宅からは都心の夜景を一望できて、東京湾を見渡せるのもうれしい。
なにより、一流ホテルのような豪華なマンションなのに住人たちが庶民的なのも気に入っていた。
姉夫婦に頭が上がらない川島は、夏休みに姪の麻衣の家庭教師を買って出る。しかし麻衣は、川島に、自分はいいからぜひ中学の先輩の家庭教師をしてほしいと頼む。
未来は今の延長線上にある
麻衣の憧れの先輩というのが、菊川新之助(15)、大衆演劇「菊川座」の花形女形であった。座長の菊川真五郎(67)は、新之助の祖父である。「菊川座」はかつて豊洲に倉庫が立ち並んでいた頃から、稽古場として倉庫を借りてやってきた劇団であった。
いまや、再開発の波におされて取り壊されるのは時間の問題であるが、まだかろうじて残されている倉庫を稽古場としている。
多くの大衆演劇がそうであるように、菊川座も近親者を中心に構成されていた。新之助も四歳のころから舞台に上がり、芸を叩きこまれ、楽屋を我が家として育った。
そして、新之助は、一座の花形として、興業をひっぱっていく存在となっていった。
しかし、新之助は達成感と同時に将来にたいする漠然とした不安を抱えていた。だからこそ、高校に進学して、勉強したいという思いが同年代の子たちより強かった。新之助の祖父も父も高校にはいっていない。新之助が高校に進学すれば、菊川座にとっても初めてのことであった。
新之助は地方巡業で学校も休みがちであったため、学力面で大きく遅れていた。そのうえ、受験の天王山をもいえる夏休み中も、北海道巡業を控えていて塾にも行けない。
そこで、一緒に付いてきてくれる家庭教師を探していた。
最後の夏休みに見つけたものは
川島は夏の北海道に行けると聞き、喜んで新之助の家庭教師を引き受ける。
北海道のホテルを巡って興業を続ける菊川座。
はじめは旅行気分の川島であったが、華やかな舞台の裏側で地道に努力する劇団員の姿や不況を跳ね返そうとする北海道の観光業界、旅芸人を思わせる一座の厳しい現実をまのあたりにする。
しかしまた、それに立ち向かっていく新之助たちの姿に、自分にたりなかったものを見出した川島であった。
川島はどうしたら自分がみんなの役に立てるのかと考えるようになっていった。家庭教師として講義する時間以外にも、一座のために働くようになった。新之助のためにオリジナルの教材をつくったり、公演が少しでもうまくいくように自ら進んで雑用を引き受けたりした。
そんな川島に、一座の人気女優の立花恵(18)は好意をよせるのであった。
3.俺に足りなかったのは応用力だった
新之助の学力も驚異的にのびていった。これでもう、応用問題に移れると喜ぶ川島に、自分は今までの人生で応用問題しかやらせてもらえなかったと答える新之助。人生の応用問題とは何か、それこそが自分に一番たりなかったものだと気づく川島であった。
最初は新之助の高校進学に難色をしめしていた座長の真五郎も、二人の頑張る姿を見て「先生にお礼に踊りをお教えしなくては」と言い出す。
真五郎が川島に選んだ曲は「銭形平次」照れながらも踊る川島を、菊川座の劇団員たちは暖かく見つめるのであった。
4.チャンスはいつも俺の隣にあった
夏が過ぎ、秋がきて、川島の就職活動もいよいよ最終局面を迎えた。
大手ゼネコンである鈴木建設株式会社の最終面接会場。
面接官から、働くことの意味を問われ、川島は思わず菊川座の巡業についてまわって学んだことを答えてしまう。川島に興味を示した社長の鈴木大二郎(7)から、習った踊りを見せてくれと言われるはめに。
実は鈴木は大川橋蔵の大ファンだった。思わぬ成り行きに戸惑う川島であったが、楽しかった夏の日々を思い出しながら一生懸命踊るのであった。
終わるやいなや鈴木が立ち上がって拍手をしている。つられて、立ち上がり拍手する重役たち。思わぬスタオペに包まれた。
川島は念願の内定通知を手にすることができた。
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