弘前市で古本市

 いち日だけの古本屋さんをやりました。これまでフリマで一部、不用本を並べたことはありましたが、古本だけの専門店は初めてです。

青森県弘前市の岩木山麓、桜林のカフェで行われた「本とカレーと珈琲と。」に出店しました。2022年8月7日(11〜16時)のことでした。

主催はその桜林茶寮というカフェと弘前の街中にある書店「まわりみち文庫」さんの企画共催で、私はまわりみち文庫にはたまにいっており、その文庫のツイッターでこの企画を知り、迷うことなく申し込みをしました。そのあと屋号も決めてと聞かれたので、「出窓舎」を古書店としてデビューさせました。

それはそれは素敵ないちにちでした。大自然の中で、林を背景に、屋根だけのテントを広げて、その下でりんご箱に本を並べます。そんな即席の古本屋さんが7軒も並びました。ほかにカレー、コーヒー、かき氷の店もありました。また読書と関係があるのか小さな眼鏡屋さんもいました。

広場のまん中には、カフェから張り出したテラスが舞台に変身し、音楽ライブと朗読会が何時間も繰り広げられました。絵本や小説、エッセイを朗読されたのは10人。まるで読書版野外フェスです。いくつになっても人に本を読んでもらうというのは、心地よくて贅沢です。当日は主催のカフェは忙しくて本業はやすみで、多分知り合いのカレー屋さんを青森市から来てもらっていたのでしょう。そのカレーのおいしいことといったら絶妙。遊びに来てくれたカレー好きの私の家族は大満足でした。

 

本は売れました。私たち昔の若者の本は断捨離のつもりで売ります。お金が欲しいわけではありませんが、例えばブックオフなどに持って行くと、本当に古い本などは買ってくれてもたぶん一冊10円がいいところしょう。それを思えば、直売りで100円ででも、売れればいいと考えました。しかもエンドユーザー、本を読んでくださる方の手に渡る。本にとってもうれしい事態です。一応最近のブックオフを知っておこうと下見に行きました。昔と違って今は廉価の棚は100円と200円の二つの巨大なコーナーがあることを知りました。そしてそれをそのままいただくことにしました。また、店を離れることもあるのでと、お金を投入する箱も作りました。私がいても100円玉をそこに入れてくださったりして、作戦は成功でした。「おつりが必要な場合はふたを開けてお取りください」と箱に書きました。

 

私が古本屋をすると言ったら妻が自分の断捨離に利用しようと、廊下にダンボール箱を置いて、時々どこからか本を出してきて入れてくれました。私はというと、屋号を決めたら、まずは看板を作らねばとそれに専念しました。これは楽しい作業でした。字体を隷書体にして板の文字をジグソウで切り抜いて作りました。看板ができあがると写真をツイッターにアップしたりして、もうそれだけで古書店ができたような気になっていました。看板とはもうそれがあるだけで店ができたような錯覚が。そして、妻が出してくれた本に、自分の本を加えたのはまさにイベントの前日でした。

ほかにミニ出版社として販売目的ではないが、過去に出版したものをいくつか持っていきました。それらも実はいくつかは売れました。ちょっと厚めのA4の写真用紙に豆本のページを印刷してあって、それをカッターで切り抜いて折って貼り付けると一冊の豆本になるというオリジナルのものもありました。組み立て説明書もつけて100円です。以前あるイベントで出したものが残っていたので、ただ置いていたのですが、目に止めた方がいたので、説明すると買ってくれました。三種類あったのが5、6枚売れました。

 

店の背後はまさに林で、蝉や虫の鳴き声が聞こえてきます。お客さんがいない時、ふと林に入ってみたりもしました。その林を背中にして隣の店は知人の鎌田さん。弘前大学を卒業して、弘前に残って地域おこしの活動をしてくれています。私とは日曜日にやっている朝市で初対面だったのだが、その前からまわりみち文庫さんでつながっていました。

彼は細く長い板を二段で渡して、たくさんの本を並べていました。彼の専門の社会学の本が多く、製本されたご自身の卒論も見せてもらいました。テーマは弘前の書店の歴史で、大変興味深いものでした。20年ほど前に閉店した今泉本店の今泉氏にインタビューしている。

昔の弘前には土手町の西寄りに大きな今泉本店があり、そして土手町の東側には花邑(はなむら)という手芸店も併設するセンスの良い本屋さんがありました。その花邑のあったところに1983年に東京から紀伊国屋書店が進出し、結果、がんばった今泉本店も2000年には閉店しました。その紀伊国屋もつい最近2019年には撤退してしまいましたが。これら大書店のほかにも文化都市弘前には町の本屋さんがあちこちにありました。弘前大学の前にも大学生向けの専門書書店と三和教材という教材屋も兼ねた書店がありました。また大学周辺と市街地に古本屋さんが何軒かあり、2022年の現在も昔ながらの、本を高く積み上げてその奥に店主が座っているというスタイルの古本屋さんがいくつか健在です。これは私の知っている弘前の本屋さんの歴史だが、彼の書いた卒論にはもっと弘前という都市と書店という文化について、社会学的に詳しく書かれてあるでしょう。卒論は論文だから文章が硬いが、それをやわらかく書き直していつか本にできたらいいね。また彼の店には大きなサイズの雑誌もたくさん置いてあり、それらはみな、書店や本の特集のものでした。

古本市だけにお客さんは本好きが多いようで、ただ買うだけでなく、店主との会話もはずみます。みなさん本や作家のことをよく知っておられて、教えてもらいました。若いカップルが、出窓舎の出した詩集を手にとって二人で見て、それから買ってくれました。詩集は、100年近く前に若くして病気で亡くなった弘前石川出身の詩人工藤正一の「ある北方的な風景」を2019年に復刻し出版したものでした。二冊持っていったのを一冊は彼らが、そしてもう一冊も、世良啓さんが買ってくださいました。作家の世良さんとは、4年ほど前に私の友人の劇作家が亡くなってその偲ぶ会が東京で行われ、その時初めてお会いしたのでした。弘前ではなかなか会えなくて、ここで偶然再会しました。

 

桜林茶寮の庭の舞台ではライアーの演奏をバックに朗読が続いている。読まれている本たちは、まわりみち文庫の奈良さんが選んだようでした。まわりみち文庫さんも、隣の隣で店を出しており、街中とちがう山の空気の中で、店と、自ら企画した朗読を楽しんでいるようでした。私の店も覗いてくれて、一冊を選んでおいて、お客さんを優先して売れ残ったらと、最後にそれを買ってくれました。

私も店をしまい終わってから、隣の鎌田さんがまだ読んでないといっていたガケ書房の本をあげに言ったら、買うと言ってきかないで100円をくれました。そうかアマチュアとはいえ業界にはルールがあるのか、同業者同士はただではもらわないで必ず「買う」という約束が。私も彼の持っていた「一箱古本市の歩きかた」(光文社新書)を買いました。この本でわかったことだが、こういった古本市のようなものがもう10年以上も前から東京では行われていて、まわりみち文庫さんらはそのこと知っていて、これをイメージしてやっていたのだなと思いました。まわりみち文庫さんとはツイッターとそのダイレクトメッセージでこのイベントのあり方などを少しやり取りしていました。その彼ら主催者が持っていたイメージから外れないで、また都会の通りでやるのではなくて、地方都市のしかも街から離れた森の中でやるのに、きちんとやれたのが不思議なくらいでした。

また別の店では「商店街はなぜ滅びるか」(光文社新書)を買ったら、カッターで切って作る紙の三角スケールをしおりがわりにとくださった。家に帰ってしおりをしっかり読んでみるとお買い上げ感謝の挨拶も付いていて、店主は土地家屋調査士さん。「場所には空間の歴史があり、暮らしがあり、移動があり…。読書は測量と似ているかもしれません」とありました。私も測量士補を持っており、親近感を覚えました。さきの新書にもありましたが、ただ本を並べるだけでなく、各書店はポップを描いたり、おまけをあげたり、全体の地図を作ったりと工夫をすればもっと楽しくなるということ。そして私以外の書店はもうそれをやっておられました。れいの眼鏡屋さんでは、細いオシャレな老眼鏡を100円でゲット。            

予期しなかったマイクでの挨拶も回ってきました。「出窓」の説明をしてから思わず、「ブックオフさんに負けないように、100円200円でがんばっています」と言ったら少しだけ笑いが起きました。意外な反応でした。ちなみに私の店の売り上げは、出版社としての新本も含めて6000円ほど。参加費1000円を引いてもたくさん残りました。最後に来てきくれたまわりみち文庫の奈良さんも、りんご箱の本が半分に減っているので、よく売れたねと言ってくれました。ブックオフ作戦は成功したようでした。来年も参加したいです。

本好きのお客様にはもっと良い本を準備してこようと反省もしました。本は家の棚にあるよりも古本屋さんの棚にあるのがふさわしいですね。

 

※出窓舎はご注文に応じて少部数の本を、オンデマンドで作ります。

連絡先

出窓舎 弘前市城東中央3-4-12-1102

osimazda@i.softbank.jp 松田耕一郎


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