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刀の「好き」をのこす

 これまで単にずっとTwitterに上げる自分が好きな刀の好きなとこを詰め込んだ画像をメインに『水彩刀剣』を描いてきて、ありがたいことに雑誌で連載もさせて頂けるようになった訳ですが、実はまだ今ひとつコンセプトのようなものが決まっていなかったものでした。
 「日本刀を水彩画で描く」それは変わらない事なのですが、それがコンセプトかというとそうではなく、ただの事実の説明な訳ですよね。そこがぼやっとしている事を実は密かに思い悩んだりしていた事もあったのですが、今回少しその方向性が見えた気がしたので記しておこうかと思います。

何故描くのか

 何度も書いてますが、確かに元々は画風を増やすというか、新しい画風、描き方の模索の為だった「閉じた線のモチーフを描く」という題材が偶々日本刀になった(まぁ、普通は『偶々』『日本刀』にはならないですけどね、はい)というだけの経緯で生まれた『水彩刀剣』ですが、描きながら段々楽しくなり過ぎて凝り性が発動した結果今のような形態になっています。
 もう普段の画業でも自然と閉じた線のモチーフを描いたり、そうでないものを使い分けたりしているので、練習としては拘る必要はなくなったといえばそうなんですが、やめられないとまらない~になってしまったのが正直な所。素直に言いますが描いていて楽しいですし幸せです(めっちゃ体力と気力使いますけど)
 単純にその絶妙なしんどさが心地良いです(だからドMと言われる)
 そう、何故刀を水彩で描くのかと言われれば、好き過ぎて楽し過ぎるからです。刀(時に拵も)が純粋に好きだと思って描いていますし、良いものだとも思っていますし、工芸美術だとも思って描いてます。

水彩髭切

工芸美術を美術として絵画にする

 確かにその行為が楽しいのかと言われると、一瞬「……そうだな、美術を美術にしとるな……」と考えて哲学に入りそうになりますが、改めて考えているとそれにも私なりの意味があるようだと思いました。

 繰り返しになりますが、日本刀は工芸技術の集合体とも呼べる美的工芸品であり、同時に武器という側面も保持していて、その機能美を備えているものだとも言えます。モデルそのものが美術品な訳です。
 それを敢えて改めて絵画という美術品として表現する事は、私にとっては一般的には矢張りどうしても先入観や印象が手前に来て「刀を美しいと思う」所に行かない視線と思考を少しでも「綺麗だな」「美しいな」という所に持ってきて貰う為の手段と言えるのかもしれません。
 そしてその事は同時に、私自身が好きだと思えている刀の色々な面や部分を最大限に表に出して伝える事が出来る方法でもあります。

 先日の記事でも書きましたが、例え無意識でも、自分が良い、美しい、好きだと思ってそう描いたものは、時に確かにそう伝わるという事があります。その意味では、そのくらいには、私は美術の力というものを信頼して生きているのかもしれません。

刀の「好き」をのこす

 さて、じゃあその信頼している美術の力を手段として何が出来るのかを考えた時、全てではりませんが、例えば、という形で一つのコンセプトが見えた気がしました。
 それは「刀の『好き』をのこす」という事です。
 この場合の「のこす」は「記録として残す」事でもあり、或いは「次に引き継がれるものとして遺す」という意味も含みます。「残す」であり「遺す」なので、敢えてひらがなで表現しています。

 ものがのこされるには沢山の場面や場合があると思います。
 常に手元にそのままの形で置いてはおけないから一時的に姿を記録する。
 やむを得ず手放す事になったけれども、それがあった事実は残したい。
 遺品として手元に残ったけれども手放さねばならないが、故人の遺志を尊重して偲ぶよすがとして後世に遺したい。

 人の持ち物であった以上、刀には持ち主だった人の人生が物語として残っていますし、それが引き継がれていく事で物語は続きます。仮に手元にはなくなるとしても、誰それが好きだった、大事にしていた刀というものがあって、それはこういう経緯があって此処に来て、大切にされていたのだという物語は残るでしょうし、残って欲しいとも思います。また、それが引き継がれて続く事で遺ってもいくでしょう。

 それが今現在の所有者のものでも、故人となった人のものでも物語は同様にあると思います。
 その刀を好きだった、大切にしていた人が居る、居た──それを伝えるものとして「刀の『好き』」がより分かる、伝わる形でのこしていく事に繋がれば嬉しいのかもしれない、という事なのかと思いました。

 現在は主に誕生の御祝として御守刀としての姿と拵を描く事が多いですが、一般の方がお持ちの一般的な刀剣商さんで買い求める事が出来る刀や拵などがそういう意味と姿でのこっていけるなら、もっと言えばそこから入って頂いて、刀を良いものだと思って改めて新しく手に取って頂く機会の一助となるなら幸いだなと思ったので、私の『水彩刀剣』のコンセプトは「刀の『好き』をのこす」という事になるのかな、と思います。

 まだまだコンセプトとして見えたかなというくらいで、いきなりどうするという事が出来る訳ではないですが、そうした事をコンセプトに持ってこれからも精進して描いていきたいと思います。


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