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ここから逃げない
「坊主、わ、わしは浮世に踏みとどまる。おぬしに白刃をつきつけられて、やっとわかった。浮世とは、生きて戦うしか仕方のないところじゃと、やっとわかった」 「わかったか」 笑巌は笑いだした。 「それが悟りというものだ。逃げずに浮世の主人になれ。われがわが身の主人になれ。禅家に、随処に主となれ、という言葉があるわい」
自分が思うように高く評価されず、いっそのこと武士をやめようとした山内一豊は、妻の千代に言われるまま、ある禅寺を訪れる。この文章はそこでのワンシーン。
「隣の芝は青い」ということばもある。
僕も若い頃、この一豊と同じような苦い体験をしている。今にして思えば、禅寺であれほど僕を殴ってくれた人は、恩人のようにも思えてくる。
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