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[2024/12/23] ウォノソボライフ(81):小銭をめぐる生活(神道有子)

~『よりどりインドネシア』第180号(2024年12月23日発行)所収~

先日、スマトラ島のリアウにて、銀行に約8kgの硬貨を持ち込んで両替をしようとした男性が門前払いになったとして話題になっていました。門前払いどころか、職員に「(その硬貨を)捨てろ」と言われたとのことで怒りの声をあげたため、注目を集めたものです。これに関しては、すぐに銀行側から釈明が出され、「両替は決まった曜日と場所が指定されているため、あの場では受け付けられなかった、アプリなどで事前予約ができるためそちらを利用してほしい」としています。「捨てろ」との発言の是非はよくわからないままのようです。

8kgの硬貨はかなりの量ですが、たまにコンビニなどで小銭を両替していく人を見ます。交通整理の人など、小銭ばかりを受け取る職業の人は集めた小銭をそういうところでまとまった額に換えているようです。また私自身、50万ルピアの支払いを全て1,000ルピア札でされたこともありました。数えるのは大変でしたが、私はどちらかというと常に小銭が必要な立場なので、むしろ崩す手間が省けて助かりました。小銭はすぐ無くなってしまうのです。

ジャカルタなどではキャッシュレスが進んでいるようですが、ここはまだまだ現金がないと話になりません。それも、使い道が多いのは小銭です。

インドネシアは比較的早いスパンで貨幣のデザインを刷新してきており、同じ額の貨幣に何種類かのデザインが混在する状況が続いています。そのため小銭の種類も多種多様、今流通しているのがどのタイプのものなのかわからなくなるくらい豊富です。

あまりに細々とした日常のことであるため扱いが雑になりがちですが、実は魅力的な小銭たちとどう関わっているのか、少しお見せしたいと思います。


小銭の活躍場面

まず、現在インドネシアの貨幣は、10万ルピアを最高額とし、5万ルピア、2万ルピア、1万ルピア、5千ルピア、1,000ルピア、500ルピア、200ルピア、100ルピアがあります(記念硬貨、記念紙幣などでは上記以外の金額も存在しますが、あまり一般的に流通してはいないので省きます)。このうち、紙幣なのは1,000ルピアまでです。また1,000ルピアは硬貨バージョンも存在します。そして1,000ルピア以下は全て硬貨となっています。

日本語で小銭というと、硬貨、つまり500円以下の金額が想定されるのではないでしょうか。

インドネシアの小銭(uang receh)も硬貨のことも指しますが、少額紙幣、1,000ルピア、2,000ルピアのことも小銭と捉えています。5,000ルピア札も場合によっては含むでしょう。このあたりは地域の物価によっても異なると思いますが、今回は主に2,000ルピア以下を小銭として扱います。

小銭は日常の活動で必須で、あちこちで活躍しています。

まず、市場や個人商店や屋台での買い物です。そうした場所では数千ルピア単位、あるいは2万、3万ルピアといった額にあることが多いのですが、そうした場所で10万ルピア札を出しても「お釣りがないよ」となります。そのため端数の小銭はあらかじめ用意しておくとスムーズにいきます。店側にお釣りがなかった場合、お店や屋台の人が近くの他の店や屋台に頼んで両替してきてくれますが、その分時間がかかりますし手間もかけてしまいます。どうしてもという時以外は出来るだけ細かいお金を持ち歩いておくのが吉です。

また、子供がいれば日々の小遣いも必要です。こちらの学校には給食がないため、昼食は弁当か、学校周辺での買い食いになります。学校周辺には移動屋台が多く集まっており、子供が好きそうなおやつを売っています。学校に購買や食堂がある場合もあります。そうしたものもやはり千ルピアから数千ルピア単位の金額になるため、毎日細かいお金を持たせる必要があります。

公共交通機関も同様です。ウォノソボには乗合バス、ミニバス、バイクタクシーといったものがありますが、距離によって料金が変わるものの大体は数千ルピアから1万、2万ルピアの金額のあたりで利用します。他の乗客がいる場合もあり、乗り降りはスムーズに済ませるためにも細かいお金が必須です。

自家用車やバイクなどで街に出た場合にも、やはり小銭が要ります。駐車料金です。インドネシアはどこもそうだと思いますが、駐車場が用意されている施設は少なく、路肩が駐車スペースとして暗黙の了解的に使用されています。大体はそこを管理している交通整理の人がいるので、彼らに料金を支払うのです。

ただ停めさせてもらうからではなく、車上荒らしや置き引き(バイクに置いてあるヘルメットなどは特に狙われます)などに対する防犯の役割もしてくれるからです。また路上駐車であるため、他の車が行き交うなかバックで発進する場合などは、自力では困難です。そうした場合も安全に誘導してくれます。それら諸々を含め、相場は2,000ルピア。中央市場前は3,000ルピア、また断食月の賑わう期間は一時的に5,000ルピアくらいに値上がりするなどはありますが、いずれにしろ少額です。

似たものに、交差点での交通整理があります。信号がない、あるいはあっても機能していない交差点などで交通整理をしている人に対するチップです。通行料ではないため、必ず払わなければならないものではありませんが、よく通る道であれば顔見知りにもなりますし、日頃から払っておくと何かあったときに心強いです。

また、街の交差点や道路脇、公園や食堂などでは物乞いの人や弾き語り、行商の人と会うことがあります。これも義務ではないので必ずあげる必要はないのですが、余裕があるときにサッと出せるようにしておくためにも、やはり崩せるところでは崩しておいて小銭にしておくのが安心です。いくらあげても自由なのですが、1,000ルピア2,000ルピアあたりが最も主流な金額のようです。

また、家にいても小銭が要ります。アリサン(arisan: 無尽講)や寄付金や婦人会費、清掃費といったものの集金がたびたびあるためです。寄付金は週に2,000ルピア以上、婦人会費は月2,000ルピア、清掃費は月6000ルピアです。アリサンは大体どこも1万ルピア単位です。

このように、10万ルピア札、5万ルピア札だけを持っているのはとても不便で、小回りが効きません。おかげで、スーパーマーケットやコンビニなど、お釣りがあらかじめ用意されている場所では少し崩せるようにしておく癖がつきました。

豊富なデザイン

ところで、小銭に関して昨年少し寂しい思いをしました。長年お気に入りだった1,000ルピア硬貨が、昨年12月で取扱停止になったのです。10年間は銀行に行けば同額のものと両替してもらえますが、現在これを使った支払いはできなくなっています。

パームヤシがデザインされた1000ルピアで、シルバーとゴールドの2色が合わさっているのが面白いなと思っていました。1993年から製造されていたものらしいです。

また、この1,000ルピア硬貨と同時に、長年慣れ親しんできた500ルピア硬貨も2種、同じく取扱停止になりました。

インドネシア銀行のウェブサイトより (https://www.bi.go.id/id/rupiah/uang-dicabut/default.aspx)

このジャスミンの図柄の500ルピア硬貨も好きでした。仕方ないので、今は私のコレクションになっています。

新旧のデザインが何種類もあるなかでお金を使っていると、今流通しているものが何なのかハッキリとはわからなくなります。

そこでインドネシア銀行のウェブサイトを見てみたところ、実にこれだけ多様な紙幣、硬貨が2024年現在流通していました。

※インドネシア銀行のウェブサイトにあった写真を筆者が一枚の画像にまとめたものです。

紙幣は色違いやちょっとしたマイナーチェンジを含め、同じ金額で最低3種あります。反対に、硬貨は、以前はもっとごちゃごちゃしていたのに、少しずつ取扱停止になっていき、今はややスッキリしました。

また1セン紙幣は存在してはいるものの、私は実際に目にしたことはありません。センはいわゆるセントであり、1ルピアは100センとなります。以前は10セン、50センといった単位の貨幣もあったようですが、今は1センを除き全て廃止になりました。

個人的に驚いたのは、1ルピア硬貨が現役となっていたことです。見たこともなくその存在も知りませんでした。他の少額硬貨はとっくに廃止されたのに、1ルピアというお金が生きていたとは思いませんでした。

現在、硬貨で最も使い勝手がいいのは500ルピア硬貨です。屋台や市場といった場所で、商品につけられる値段の最少の端数が500ルピアであることがほとんどだからです。100ルピア硬貨200ルピア硬貨は500ルピアを構成するために使われることが多いので、500ルピア分をまとめてセロテープで一塊にして(200ルピア2枚と100ルピア1枚など)使う人もいます。

反対に、スーパーマーケットなど、レジを導入している場所では様々な値段の商品があるため、100ルピア、200ルピアも使います。ただし50ルピアはほとんど使われず、その姿も最近ではあまり見なくなりました。

インドネシアはインフレが続いてきたため、少額の貨幣は活躍しづらくなり、淘汰されてきました。私が住み始めた2007年にはまだ25ルピア硬貨があったのですが、2010年に取扱停止になっています。

もっとも、2007年当時でも既に使われることは滅多にない、珍しいものになっていました。今ある50ルピア硬貨もいずれは取扱停止になるかもしれません。

貨幣のデザインはその国の象徴をデザインにしていることが多いので、貨幣からもインドネシアらしさを感じられます。先の2色の1,000ルピア硬貨のように、今は引退してしまったけれどお気に入りだった小銭たちを少しご紹介します。

左から、ミナンカバウの伝統家屋がデザインされた100ルピア硬貨、水牛レースがデザインされた100ルピア硬貨、コモドドラゴンがデザインされた50ルピア硬貨、そしてナツメグがデザインされた25ルピア硬貨です。いずれも、いつのまにか財布に入っていた、どこかでもらったお釣りです。インドネシア各地の特色が小さな面にギュッと詰められていて、見ていて楽しくなるものでした。

現役のもののなかでは、アンクルン(Angklung 西ジャワの楽器)がデザインされた1,000ルピア硬貨がお気に入りです。

こちらは2010年から発行された比較的まだ新しいものなので、しばらくは付き合っていけそうです。

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