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ラサ・サヤン(59):~犬を飼うインドネシア人~(石川礼子)
〜『よりどりインドネシア』第183号(2025年2月9日発行)所収〜
イスラム教と犬
『よりどりインドネシア』第179号で、横山さんが『ネコのいる風景』について書いていらっしゃいました。私はどちらかというと「犬派」で、猫はあまり好きではありません。現在、我が家には4歳になる夫婦うさぎ(人間で言うと40歳に等しいらしい)がいるため、犬を飼うことはできませんが、20年ほど前に事情があって「ロットワイラー」という大型犬を二匹飼ったことがあります。ドイツが原産国で警察犬として使われている忠誠心の高い犬種です。とても可愛がっていたのですが、暑さに弱いためか、はたまたブリーダーが近親交配を行なったために、もともと弱い体質だったのかは分かりませんが、非常に短命でした。
それ以降は犬を飼うのをやめ、うさぎにシフトしました。以前は、インドネシアで犬を飼うのはかなりハードルが高いものがありました。何しろ、住み込みのメイドさんが犬を嫌うのです。犬好きのメイドさんを探すのは至難の業です。
なぜメイドさんは犬を嫌うのか。それは『宗教』と深い関係があります。
メイドさんの多くはイスラム教徒です。一般に、イスラム教徒にとって「犬は不浄の生きもの」とされており、特に犬の唾液は人間にとって危険だと唱えています。そのため、犬に舐められた場合、その部分を7回洗って清めなければなりません。7回のうち、1回は土で洗わなければならないとされています。
多くのイスラム教徒の女性は、使用済みの生理用ナプキンを洗う習慣があります。これは「悪魔は使用済みの生理用ナプキンに残った経血が好きで、それを所有する女性に危害を加える可能性がある」とされているそうですが、現実には犬がゴミの中から使用済みのナプキンを漁って舐めるからだといわれています。日系メーカーが生産する生理用ナプキンのパッケージに“Mudah Dicuci”(簡単に洗浄)と印刷された商品もあるくらいです。
食用の犬肉
一方、インドネシアの民族の中には犬肉を食する文化を持つ民族がいます。有名なのは、北スマトラのバタック族、北スラウェシのミナハサ族ですが、バリ島や中部ジャワのソロにも犬肉を食す文化があります。バリ島では以前、年間7万頭の犬が食用になっているという報告もありましたが、2023年に犬肉の商売がバリ島で禁止され、違反者には罰金刑が科されることになりました。
インドネシア共和国2009年法律第18号では、動物の捕獲、飼育、屠殺、輸送に関して動物保護に配慮した措置を講じることが義務付けられています。しかしながら、インドネシア全般では犬猫肉の販売は現在も許可されています。そのため、ジャカルタ動物保護ネットワーク(JAAN)、中部ジャワの動物愛護団体、アニマル・フレンズ・ジョグジャ(AFJ)、マナド動物友好協会(AFMI)などの団体がここ数年、インドネシアでの犬猫肉商売を終わらせるためのキャンペーンを行っています。
インドネシアのペット事情
少し古いデータですが、インドネシアでは2022年時点において何かしらのペットを有する人の割合は67%となっており、過去にペットを飼ったことがある人が10%、残りの23%がペットを飼ったこともなく、今も飼っていない人です。上述の宗教上の理由もあり、インドネシアではペットを所有している人のほぼ半分が猫を飼っているという、世界でも有数の「猫好き国民」といえます。
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ご参考までに、東南アジア各国におけるペットに関する2023年度のデータを下記します。
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ペット関連ビジネス
コロナ禍以降、世界的にペットの需要は増えています。2023年に実施されたブルームバーグ・インテリジェンスの調査によると、ペット産業は成長を続け、2023年には世界全体で3,200億ドルに達し、2030年には5,000億ドルに近づくと予測されています。東南アジアペット愛好者協会(APLAS)によると、東南アジアの中でも特にタイ、フィリピン、インドネシアでは、ペット、特に「犬」の飼育数が急速に増えているそうです。
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