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ラサ・サヤン(60):~アイデンティティ、伝統、変化~(石川礼子)
〜『よりどりインドネシア』第184号(2025年2月23日発行)〜
春節の始まりと終わり
今年も春節がやってきました。我が家も春節の二週間くらい前から、料理好きの主人がそわそわし出します。伝統市場での買い出しが始まり、春節のお祝い用の料理の下ごしらえを少しずつ始めます。
春節のことを「旧正月」とも呼びますが、「旧正月」とは、日本が明治5年以前に採用していた太陰暦でいうお正月のことで、明治6年に現在、日本が採用している太陽暦「グレゴリオ暦」における正月と区別するために、日本でだけ旧暦の正月を「旧正月」と呼んでいます。中国では「春節」と呼ぶので、あえて「春節」で言葉を統一したいと思います。
春節の祝いは、 前日(今年は1月28日)の夜に始まり、「元宵節(げんしょうせつ、旧暦の1月15日、年の初めの満月の日で今年は2月12日)」で、終わりを迎えます。
春節の終わりの元宵節に、中国では「元宵」という団子を食べる習慣があるのですが、インドネシアでは、元宵節のことを福建語の “Cap Go Meh”(チャップ・ゴ・メ)と呼び、それと同じ名称の料理を食べます。
料理の「チャップ・ゴ・メ」は、ロントン(お米をバナナの葉で包んで蒸したもの)、隼人瓜、海老や鶏肉、卵などをココナッツミルクベースのスープに入れ、チリソースやコヤパウダー(エビ粉に削ったココナッツやニンニクを混ぜたフレーク)をお好みでかけます。この料理は、中部ジャワのスマランで生まれた料理らしく、春節を祝う華人系インドネシア人がご近所のプリブミ住民の方々にお裾分けをする料理として作ったのが始まりだと、スマランの歴史に詳しい華人系インドネシア人の方から聞きました。ですから、「チャップ・ゴ・メ」は、中国からの移民とジャワ系現地人の間の友好を示す料理でもあるそうです。「チャップ・ゴ・メ」は、今では季節を問わず提供される料理ですので、皆さんも是非お試しください。
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(出所)https://www.knorr.com/ph/tips-and-tricks/chinese-new-year-food-at-home.html
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(出所)https://www.rri.co.id/tanpa-kategori/143056/ragam-makanan-khas-perayaan-cap-go-meh
春節のタブー
中国には、春節当日に「してはいけない」タブーとされる事柄が18ほどあり、華人系インドネシア人も風習として守っています。
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(出所)https://www.indoindians.com/14-unique-chinese-new-year-traditions/
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(出所)https://www.chinahighlights.com/travelguide/festivals/chinese-new-year-taboos.htm
その中の幾つかをご紹介します。
1.掃除やゴミ出しをしない
春節に掃除をすることは富を一掃することと同じ。ゴミを出すことは、家から幸運を捨て去ることを象徴する。
2.朝食にお粥を食べない
朝食にお粥を食べるのは貧しい人だけとされ、「貧しい」状態で年を始めるのは不吉な兆候である。
3.髪を洗ったり、切ったりしてはならない
中国語で髪(fa)は「富」を意味する発財の「fa」と同じ発音なので、新年の初めに、自分の財産を洗い流したり、切り捨てたりすることはよくないこととされる。
4.はさみやナイフを使わない
はさみの刃は、人々が喧嘩をするときの鋭い唇のようだとされており、春節の初日にハサミを使うと、その年は他人と喧嘩することが絶えないと考えられている。
5.お年玉に入れるお金は奇数にしない
中国人は偶数を好み、良いことは必ず二倍でやってくるという伝統的な考えがある。ただし、4や40などの不吉な数字(4は死を意味する)は避ける。
6.嫁いだ娘は、春節に両親の家を訪問することはできない
嫁いだ娘が両親宅に行くと、両親に不運をもたらし、経済的困難を引き起こすと考えられている。
7.子どもを泣かせない
子どもの泣き声は家族に不運をもたらすと信じられており、親はどんな手段を使っても子どもを泣かせないよう最善を尽くす。
8.破れた服、白や黒の服を着ない
特に子どもが春節にそのような服を着ると、不運が訪れると言われている。また、赤は春節には縁起の良い色とされ、白や黒は伝統的に喪に服す色である。
9.殺生は禁止
春節の1日目から15日目までは、殺生を避ける。血は凶兆とされ、不幸を引き起こす。通常、春節の前日までに鶏や鴨、豚や魚を料理する。
これらのタブー事項の中に、私が小さい頃に親から言われた事柄もあります。たとえば、お正月には下着から服まですべて新しいものを着用しなければならない、針やハサミを使うことは不吉である、などです。お正月に「お節」を毎日食べるのも、中国の風習に基づき、ナイフを使ったり、殺生ができないことから、暫く料理をしなくても良いように「お節」が生まれた経緯があるのかもしれないなぁと思いました。
インドネシアにおける春節もこれらの風習にしたがい、華人系インドネシア人は皆、赤い服を着て一同に介し、豚肉や鶏肉、魚介類を中心とした料理が振る舞われ、みかんをはじめとする果物がふんだんに用意され、菓子入れには何種類ものスナックが盛られ、赤ちゃんから子どもたち、そして成人していても未婚の男女には「お年玉」が配られます。しかし、6.や7.についてはインドネシアではタブーではないようです。
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