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ウォノソボライフ(83):KKNを迎えるということ(神道有子)
〜『よりどりインドネシア』第184号(2025年2月23日発行)所収〜
3年前、『踊り子の村での奉仕活動(KKN di desa penari)』というホラー映画がインドネシアで大ヒットを記録し、『よりどりインドネシア』誌上でもたびたび話題となっていました。この映画でKKN(Kuliah Kerja Nyata)、直訳するとという言葉がより広く浸透しましたが、これは大学生による奉仕実習であり、田舎に滞在して地域の活動に参加するというものです。
私の住む村は、こうしたKKNや中学・高校による田舎にお泊まり体験などのプログラムを受け入れる立場にあります。映画ですっかり有名になったKKN活動ですが、では実際に受け入れる側はどのようにしているのか、ざっくりとご紹介します。
都会と田舎のギャップを求めて
KKNやお泊まり体験でやって来るのは、その多くは首都ジャカルタを含むいわゆるジャボデタベック首都圏(ジャカルタ、ボゴール、デポック、タンゲラン、ブカシの頭文字をつなげた略称)、バンドン、ジョグジャカルタ、スマラン、スラバヤといった、ジャワ島の主要都市の学校・大学です。国立学校、私立学校など様々ですが、目的はもちろん、「都会では味わうことのない田舎の環境に触れること」。村にやってきて、田んぼや森に入ったり、農作業体験をしたりします。
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また、村は昔から伝統芸能が盛んであったことからこれをウリにしています。学生たちに舞踊体験をさせたり、村の楽団による上演を行ったりもしています。
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お泊まり体験は短ければ一泊のみ、大体は二泊や三泊、KKNとなると数週間単位での滞在となります。KKNの場合は、大体1月や2月、つまり今ぐらいの時期であることが多いのですが、中高生のお泊まり体験は年中通してやってきます。年間で10回くらいはあるでしょうか。観光バス2~3台で村に入り、数人のグループに分けられて、それぞれが村民の家に宿泊となります。村の人との触れ合い、生活体験もプログラムのうちです。学生らに出す食事、寝床などはそれぞれの家が用意します。泊めた家には後日村から礼金が入るので、費用負担はほぼかかりません。学校が組んだ予定が終わった夜には、それぞれの家でゆったりと過ごします。
迎えた家ではできる限りでのもてなしをしています。宿泊期間で仲良くなって、「もう皆我が子のようだ」と言う人もいます。学校へと帰って行った後も写真を送ってもらったり、といった交流もあると聞きました。
KKNの場合は、もっと主体的に村の運営にも関わってきます。定期的に開かれる婦人会、隣人会などの寄り合いに顔を出し、どういったことが話し合われており、決められていくのかをその場で見聞きします。また村対抗コンテストがある期間であれば、実行委員とともに参加し、村おこしやその維持を研究、学んでいくのです。
こうした学生の受け入れは、村にとっても刺激となっています。田んぼ体験など、自分たちにとっては日常の当たり前のことが、よその人には面白いのだというのは新鮮に映ります。
学生はジャワ出身とは限らないため、地元の料理を出したりウォノソボにおけるジャワ語を教えたりなど、互いに違いを体感する機会でもあります。
また、進学や出稼ぎでどうしても若い世代が村を出て行きがちなため、娘息子のような若者が村にいるだけで、普段と違う活気が生まれます。そうした学生目当ての屋台も近隣の村からやってくるため、祭りのときのような賑やかさです。
中高生やKKNの受け入れを通して、生活に少し変化が与えられます。
観光村となるために
こうしたお泊まり体験やKKNの受け入れは、2010年代中盤頃から始まりました。元々、村祭りや行事ごとの芸能上演では近隣からの見物人が来ていましたが、更なる村の活性化を目指し、学生団体を積極的に受け入れていったのです。
最初のうちは、とにかく泊まれるスペースのある家へ学生たちを割り振っていました。しかし、より快適に過ごしてもらえるようにと、個室があることを条件にする、また毛布など用意しなければならないいくつかのものをリストアップするなど、徐々に整備されていきました。今では、村のなかでも比較的立派な佇まいの家がホームステイ先として依頼を受けます。
学生たちと交流を持つために、村民には開催されるイベントに参加するよう呼びかけも行われています。学生が泊まっている家でなくても、村全体で歓迎する姿勢です。
そうした努力が実ったものか、最初は年に一回ほどだったお泊まり体験の団体は、年を追うごとに増えていきました。コロナ禍では実習のための滞在は一度完全にストップしましたが、KKNにおける調査や研究はオンラインにて行われていました。2023年頃からまた少しずつ復活し、今に至ります。
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