
「光る君へ」メモリアル~紫式部をめぐる相聞歌(第5回)
この連載は大河ドラマ「光る君へ」を振り返り、紫式部をめぐる古典和歌での相聞歌を創作することによって、ドラマの魅力と古典和歌の奥深さを新たに発見しようとする試みです。
「光の君へ」第4話でまひろは源倫子の代わりに五節の舞を舞うことになりましたよね。
そしてまひろは、居並ぶ赤い束帯を着た五位の諸大夫の中に三郎(道長)の姿を舞台の上から見つけます。
それまで三郎(道長)のことを庶民だと思っていたまひろにとって、実は三郎(道長)は貴族であったということは驚くべきことであるのに、それ以上に驚愕したことは、道長の隣の席の男は忘れもしない母の敵、藤原道兼だったのです。
そして舞い終えた後に、三郎は実は右大臣藤原兼家の三男で、母の敵の藤原道兼の弟だと知るのです。
衝撃のあまり、まひろは気を失ってしまいました。
【この時のことをまひろと道長が詠み交わした(と想像した)相聞歌は、
「光る君へ~まひろ(紫式部)をめぐる相聞歌(第2回)」でアップして
おりますので、良かったら読んでみて下さい】
さて「光の君へ」第5話になりますと、五節の舞の後、気を失った舞姫がまひろであったことを知った道長は、これは自分の身分を知ったショックが原因かも知れないと考え、まひろに詫びるために会いたいと文を届けます。
道長は為時邸を訪ねるつもりだったのですが、自分の話す内容を父に知られたくなかったまひろは散楽師の直秀に頼んで、直秀の手引きで、とある廃邸で道長と会うことにします。

そこで、自分が倒れた原因は母の敵道兼がそこにいたからだと話します。
まひろは6年前に母が道長の兄道兼に殺されたこと、道長、道兼の父兼家から禄を得ていた自分の父為時が、道兼の罪に目をつむったいきさつを話します。
まひろは、あの日自分が三郎に会おうとしなければ、道兼と出会うこともなく母は殺されなかったのだと泣き崩れます。

道長は率直に詫び、そしてまひろを直秀に託すと自邸に急いで帰ります。自邸では兼家と道兼がいました。道長が6年前の事件のことを問い詰めます。
道兼は不遜な態度で、虫けらを殺して何が悪いと言い放ちます。思わず激高した道長は道兼を殴り飛ばします。
ですが、この事件を実は兼家がもみ消したと知り愕然とするのでした。

家に帰ったまひろはわけも話さず、心配して待っていた父為時の胸にすがって泣きます。為時もまひろを問い詰めることはしませんでした。

部屋に戻ったまひろが落ち着きをとりもどす頃を見計らって為時は、今後左大臣家での倫子のサロンでの和歌の集いには行かなくてもよいと告げます。これは右大臣藤原兼家のライバルである左大臣源雅信の娘倫子が、天皇の后として入内する可能性があるかどうかを探るため、倫子のサロンにまひろを間者すなわちスパイとして送り込んだ経緯があったからです。
しかしまひろは家の拠り所が母の敵である右大臣家しかないというのでは、将来がおぼつかなく、左大臣家ともつながりを持つべきであると答えて、これからも倫子のサロンに通いますと父為時に伝えるのでした。
(まひろが為時の胸で泣く場面は第5回の最後、この場面は第6回の冒頭で展開されました)

前置きが長くなりましたが、ここはまひろが父為時にながらく抱いていた不信感、憤りの気持ちが解け出す端緒となる場面になったと思います。
この時の二人の気持ちを相聞歌としてみました。
ちゃっかり僕も相聞に加わっております。(^^)v
とがめにはことわりしともわりなくて 心の闇にまどひわたれり
藤原為時
まひろの非難に対しては、やむをえない事情があることは説明していたのだが、道理に合った弁解とも言えず、どうしようもなくつらい思いで、ずっと思い乱れてきた。まひろの気持ちを思えば思うほどつらかった。
わりなかる憂き世のことと心乱れ われゆゑなればわびまさりゆく
まひろ(紫式部)
人が生きていくこととは、道理ではわりきれないつらいものだと悩んできました。実は母が殺された原因は自分にあったのだと思うとますますつらかったのです。
年ごろのいぶせきことぞあきらめなむ なかなかなるもとけぞそむらむ
松井浩一
これでお二人の長年の心のしこりを晴らすことができるでしょう。まだ不十分かも知れませんが、お互いのわだかまりは今解け始めたと思いますよ。
【語意】
とがめ 非難すること 責め
ること
ことわる 事情を説明する 弁
解する
わりなし どうしようもなくつ
らい 耐えがたい
いぶせきこと わだかまり
あきらむ 心を晴らす
なむ ここでは(可能性の
ある推量)としてい
ます。 ~ことがで
きるだろう。
なかなか 不十分、中途半端