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「光る君へ(総集編)」メモリアル~紫式部をめぐる相聞歌(第3回)
この連載は大河ドラマ「光る君へ」を振り返り、紫式部をめぐる古典和歌での相聞歌を創作することによって、ドラマの魅力と古典和歌の奥深さを新たに発見しようとする試みです。
総集編 終の巻 本放送の時とストーリーの組み立てを変えてきましたね。
①源氏物語の執筆が道長の地位の安定
に寄与した後、源氏物語を幻の帖⇒
雲隠の帖まで執筆し終え、つまり光
源氏の生涯を描き終えたことで、ま
ひろは自分の役割は終わったと感じ
るようになった。
②そして、けして手に入れることは出
来ない道長のそばにいる苦しみに耐
えられなくなった。
③道長の正妻倫子に対しても、源氏物
語で光源氏の生涯を書き終えた段階
で、いったんけじめをつけて道長の
もとを去るべきと考えた。
④娘の賢子を後任とすることによって
娘の地位と生活の安定を図りたかっ
た。
⑤そして道長が「望月の歌」を詠む宴
を見届けた後、道長のもとを去る。
⑥その後まひろは旅に出て「めぐりあ
ひての歌」を詠む。
このようにまひろが考えて行動したと推察できるようなストーリーの組み立てに総集編は編集し直したものと思われます。
源氏物語の幻の帖を執筆した直後に道長のもとを去る申し出をしたことも
まひろの心の動きを表すものとして象徴的な編集でした。
ここで光源氏の辞世の歌である「もの思ふと過ぐる月日も知らぬまに年もわが世も今日や尽きぬる」をまひろは書き記し、また月を眺めながら口ずさむのですから。
この場面、本編では第42回「川辺の誓い」の回で挿入されていたものでした。この場面の後で「幻」の帖の次の帖、本文が何も書かれてなく「雲隠」とのみ記された草紙を道長は受け取ることになります。
そして源氏物語の光源氏が亡くなった後の物語、ここの主要な物語は宇治十帖ということになるのですが、この執筆を始めるのは病に倒れて宇治で静養する道長をまひろが訪ねて行ってからというのが本編での流れでした。
しかし総集編のこの構成ですと宇治十帖は、道長のもとを去ってから書かれたということになるのだろうかと思います。
さて、総集編では道長が「望月の歌」を詠んで、これに相聞をするように「めぐりあひての歌」をまひろが詠んでいます。
これも素晴らしい編集だと感動しました。実は本編の最後の場面で、旅に出たまひろが何やら歌らしきものをしたためているのを見てまして、何を書いているのだろうと気になってはいたのですが、このような形で伏線を回収するとは、実に古典文学大河として王道の素敵な演出であると思いました。
とても感動しましたので、僕もこの二つの歌に「相聞歌」をつけさせていただくことにしました。
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この夜をばわが夜とぞ思ふ望月の かけたることもなしと思へば
道長
めぐりあひて見しやそれともわかぬまに 雲がくれにし夜半の月かな
まひろ
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隠れにし月をあたらとながむるに 雲にほのかに浮かぶ影かな
浩一
道長の「望月の歌」で、世 ⇒ 夜 と変換しております。
実は望月の歌は、道長がまひろとの初めての逢瀬の夜を懐かしく思い出して詠んだ歌なのです。
「あの夜は僕のためにある夜だったんだ。僕の今までで最高の夜があの夜だった。あの夜僕たちは最高に幸せだったんだ」
本当は道長は「この夜」⇒「かの夜」、「思ふ」⇒「思ひし」と詠みたかったのですが、さすがに皆が居並ぶ前では、そのように詠むのは憚られて「この夜」、「思ふ」とやむなく詠んだのでしょう。
ここではこのようにこの歌を解釈しております。
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そしてまひろは表向きは旧知の友との短い時間での再会という歌にしてお
りますが、実は「めぐりあひての歌」は、道長と出会って共に歩んだ人生を振り返る歌なのです。倫子と道長のことはけして口外しないという約束をしましたので、本当の意味は隠し、現在まで旧知の友を思った歌として伝わっているのです。
ここではこのようにこの歌を解釈します。
そして僕の歌は、大河ドラマ「光る君へ」への借別の気持ちと、このドラマから受けた感動は、いつまでも胸の奥にほのかな光となって残るだろうという思いを込めた歌として、藤原道長、紫式部(まひろ)、松井浩一3名での相聞歌としました。
古典文学大河「光る君へ」は終わってしまいましたが、この「光る君へ」のおかげで歌に対してのインスピレーションをいろいろといただきましたので、この「まひろ(紫式部)をめぐる相聞歌」は、今後も続けていきたいと思っております。
時おり僕も相聞に加わることで、僕の古文の大師匠である紫式部先生を始め、藤原道長などの「光る君へ」の登場人物と相聞歌を通じて響き合えることに、とてもわくわくした気持ちで楽しみにしております。
もちろん古典和歌の形で歌を詠みますので、分かりづらいとは思いますが、気にかけて下さる方、興味を持って下さる方が少しでもいらっしゃったら嬉しく思います。
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