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保険証と免許証の裏の臓器提供の欄、わかりにくくて書けなくない?
保険証とか免許証の裏、書いてますか?
臓器提供に関して○をつけるあれ。
記入してますか?
![](https://assets.st-note.com/img/1667410491259-Iy2jnNOGhy.png?width=1200)
現在筆者は32歳で肝臓の難病を患っている。肝臓移植以外の根本的治療法は今のところなく、2, 3年後くらいに移植手術になるだろうと言われている。
しかし、日本では移植を希望していても実際に臓器移植を受けられる確率は、ガリガリ君の当たりくらい低い(3%)らしい。ガリガリ君なんて1回も当たったことないよ……。
調べてみると、日本の移植医療は海外と比べて遅れていて、臓器提供の数がとても少ないらしい。どうして日本は海外よりも遅れているんだろうか?
そもそも臓器提供って何? という方はこちらの記事を読んで欲しい。
臓器提供がガリガリ君レベルになっている一因として、臓器提供の意思表示をしている人が少ない(未記入である)ことが挙げられる(注1)。本人の生前の意思表示が、残された家族の最終判断に影響するのだ。
そして、意思表示の記入率は全体の12%程度と非常に低い(注2)。
なぜ記入率は低いのだろうか?
原因の1つとして、保険証などの裏面の記入欄がわかりにくいことがあると思っている。
この記事では、筆者の感じた臓器提供の意思表示欄の「わかりにくさ」について書いている。
加えて、自分なりの改善案も載せた。読んでくれた方は、意見やアイディアをいただけると嬉しい。
注1)平成29年度の世論調査によると、事前に意思表示がなかった場合、「臓器提供を承諾する」と答えた家族の割合は49%。一方、事前に提供意思表示があった場合、「意思を尊重する」と答えた家族は88%。
事前の意思表示の有無が臓器提供の最終判断に少なからず影響すると言って差し支えないだろう。
注2)「既に意思表示をしている」は13.6%。
まずは見てみる
まずは健康保険証を裏返して見てみよう。
![画像2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/65872432/picture_pc_3f85e93fb09d643db39650565e11063e.png?width=1200)
……なんかよくわからん。
そう思わないだろうか?
よくわからないと記入する気も起こらないものだ。
臓器提供の意思表示はそもそもボランティアなので見返りがない。しばらく見てみてわからなかったら「めんどくせっ! やーめた!」となってしまうだろう。世論調査の結果を見てもわかりにくさによって記入に至っていない人がいると推察できる(注3)。
ではどこがわかりにくいのだろうか?
筆者の思うわからないポイントは大きく2つ。
意思表示サインの使い道がわからない。
「脳死」が難しくてわからない。
注3)記入意思はあるが記入に至っていない潜在層について、2016年の意識調査のP8を見てみる。「意思表示をしてみたい」が27.0%となっている。さらに、このうちの90.6%が死後に臓器提供しても良いと考えているようだ。
次に、記入していない理由について平成29年(2017年)の世論調査を見てみる。「自分の意思が決まらないからあるいは後で記入しようと思ったから」「臓器提供やその意思表示についてよく知らないからあるいは記入の仕方がよくわからないから」が合計37.5%となっている。これらは「記入欄がよくわからない」人たちだろう。
まとめると、記入したい意思はあるが記入に至っていない潜在層が27.0%いて、記入に至っていない理由の37.5%は「難しくてよくわからなかった」という感じだ。
平成29年度 > 移植医療に関する世論調査 > 2 調査結果の概要 1 > 図5/世論調査
謎1:使い道がわからない
最初に感じるのが、この意思表示サインがどう使われるのかがよくわからないことだ。
「ここに記入したら100%臓器提供されるの?」「逆に記入していなかった場合はどうなる?」「自分は良くても家族が嫌がるかも……」とかわからないことだらけだ。
こういった疑問が次々に浮かんできて、やがて疲れて記入をやめてしまう。
謎2:「脳死」が難しくてわからない
![スクリーンショット 2021-11-16 1.26.04](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/65871916/picture_pc_99e37d28168ad584442f24a649b78d54.png?width=1200)
難しいポイントその2、いきなり「脳死」というワードが出てくる。
多くの人は「脳死」については深く知らない。あえて言うなら「回復しないらしい……ただ奇跡の回復例とかも聞いたことある……」程度の理解だろう。。
よく知らないけど、助かる確率がほんの少しでもあるなら、脳死OKにサインするのはリスクが大きすぎる。万一を考えて「提供しない」を選びたくなるのが記入する人の心情だろう。
改善案
以上を踏まえて、臓器提供の意思表示の文言の変更を提案したい。
使い道わからない問題
意思表示したものがどう使われるのかは、移植の現場を知ることでかなりイメージが湧くと思う。良い動画を見つけたので4:19〜をぜひ見てほしい。
移植実施のプロセスは下のようになっている。
1.医師が家族に「脳死とされうる状態で、回復の見込みはない」ことを伝える。
2.家族が臓器提供の話を聞くことを希望する。
3.家族が臓器提供を承諾する。
4.法的脳死判定を行う。
5.臓器移植手術が行われる。
移植の最終判断は家族が行っていることがわかる(注3)。
しかし、移植の現場をイメージすると、最終判断が家族とはいえ、提供者本人の意思表示がやはり重要だと改めて感じた。
患者が死亡したと思われる状態になった直後に、医療者と患者家族が話をするのをイメージしてほしい。患者が亡くなった悲しみの中で臓器移植の説明は行われるのだ。
患者家族は、本人の生前の意思表示がない状態で臓器提供について考える気持ちになれるだろうか? 生前の臓器提供の意思表示があれば、その気持ちを尊重して「とりあえず話を聞いてみよう」という気が少しは湧くかもしれない。
また、医療者側も生前の意思表示があったほうが臓器提供の話を家族に切り出しやすいだろう。
注3)脳死下での臓器移植は、「本人の提供意思表示」かつ「家族の承諾」が移植の条件だったが、2010年に「改正臓器移植法」が施行され、「本人の意思表示なし」の場合は、「家族の承諾」のみで臓器提供が可能となった。
「脳死」難しすぎ問題
「脳死」が難しいのはもう仕方がない。
だから、しょっぱなから「脳死」という言葉を使うのは避ける方針がいいと思う。
一方で、重要な説明が抜けている。脳死が臓器提供においてどういう意味があるか、すなわち心停止後よりも脳死後のほうが提供できる臓器が多くなるという説明だ。
「それくらい調べたらわかるっしょ」という意見は間違っている。多くの人は調べる前に記入をやめて保険証を財布にしまっている。
どういう文言にするか
使い道と臓器移植のプロセスを踏まえると、最も大切な質問は「臓器提供する意思があるか?」だ。
だから最初の質問はこうだ。
・あなたは死後に臓器を他の誰かに提供したいと思いますか?
はい・いいえ・わからない
次の質問で初めて「脳死」を出そう。
しかし脳死は難しい。フェルマーも「脳死について書くには健康保険証の裏の余白は狭すぎる」と言っていた。そこで選択肢「わからない」を用意する。
・「心臓の停止」か「脳死」のどちらを死として受け入れますか?
どちらも受け入れる・心停止のみ・脳死のみ・わからない
※ 心停止後よりも、脳死後のほうが提供できる臓器は多くなり、多くの命を救えます。
細かい使い道については、全て注釈でまかなう。
※ 「提供したくない」意思を示した場合は、臓器提供は行いません。
※ 「提供したい」意思を示した場合、あなたの意思を家族に伝え、話し合いの上で臓器提供が行われます。
※ 記入がなかった場合、家族の判断に委ねられます。
改善案の雛形
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![](https://assets.st-note.com/img/1667458539568-B6Vj3rss7C.png?width=1200)
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皆様の意見もいただけると嬉しいです。
・文言を変えたほうがいいのは同意する。ただし、提案内容には同意しない。もっとこうしたほうがいい。
・文言を変える必要はない。今のままで十分わかりやすい。
・意思表示の有無に記入欄の「わかりやすさ」はあまり関係ないと思う。
などなど。
Twitter → @matuda_takafumi
いただいた意見
こちらで要約させていただいています。
・臓器提供について「知らない」「興味ない」が大半だと思う。
・免許証の裏面を人に見せるとききまりが悪いから、シール貼ってある状態がデフォルトにして欲しい。
・終末期の治療方針、すなわち延命治療を行うかどうかの意思表示もしたい(注4)。
注4)人工呼吸器をつけるか否か、胃ろうか静脈点滴か(脳梗塞患者の延命治療など)の選択は、本人の意思表示が困難な場合、家族が行うことになる。一度人工呼吸器をつけた場合、後から外すことは基本的にできないため、後戻りができない決断になる。決断自体の精神的負担が大きく、決断によって金銭的負担が大きく変わる。
健康時の本人の意思をどこまで尊重するべきかも難しい問題である。患者が直前になって延命措置を希望する例もあるためだ(注5)。
注5)患者は回復の見込みがない場合の延命措置拒否の要望を記した事前指示書(リビングウィル)を握りしめていたが、付き添ってきた妻と相談し、患者も納得した上で、気管内挿管・人工呼吸器装着による循環管理・呼吸管理を開始した。
臓器移植に関する記事は以下のマガジンにまとめているので参照して欲しい。
補足と参考文献
医療現場でも、当人の直接意思確認ができなくなった人に対して、尊厳死=積極的延命治療の終了の是非の判断を行う時に、その人が何年も前、まだ健康な時に表明していた意思表示をもとに判断してよいのか、という厳しい倫理的判断を迫られることがある。
— 向川まさひで (@muka_jcptakada) January 8, 2019
この場合、尊重すべきは心身ともに落ち着いた状態で文書に記された数年前の意志なのか、それとも、切迫した状態で口に出た意志なのか。難しい問題で私も答えはありません。「予めの本人意志による尊厳死」に異を唱える人たちは、この点を問題にしています。余計な配慮や思考のない言葉こそ意志だ、と。
— 向川まさひで (@muka_jcptakada) January 9, 2019