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オリンピックには何歳で出場するのか?柔道家のピーク年齢

東京2020オリンピックでは、柔道選手がすばらしいパフォーマンスを披露してくれています。柔道は身体能力、テクニックが鍵となる競技です。一方で、今回の試合を観て、戦略の重要性を改めて再認識しました。

高藤選手の活躍

髙藤直寿選手が先陣を斬って60kg 級で優勝し、金メダリストとなりました。決勝を含めすべての試合における戦略は実に緻密なものでした。一見、地味に見える試合運びに、どのような背景や文脈があったのか、eJudo編集長、古田 英毅さんが解説をしています。この解説を読むと、背後にある戦略の厚みに感嘆するのではないでしょうか。

#柔道家のピーク年齢

一般的に、身体能力のピークは20代前半にあると言われます。一方で、戦術的、戦略的なピークは、多くの競技でそれよりも遅れます。今回の高藤選手がその一例です。もちろんピーク年齢は競技によって多少異なります。Haugenたちは陸上競技を対象にピーク年齢を調べたました。その結果、100m走や幅跳びなど多くの競技で24–27歳にピークがあったのに対し、マラソンや投擲種目では、28–29歳と少しピークが高くなりました(Haugen et al., 2018)。

さて、柔道ではどのようになるでしょうか?柔道は身体能力やテクニックだけでなく、上で示したように戦略も重要になります。対人競技ですから、心理的な面も重要です。戦略や心理のピーク年齢は、身体能力とは必ずしも一致しません。そこでFranchiniたちは、世界選手権とオリンピックに出場した選手のデータを過去25年にわたり調べ、12,005人の年齢をデータに検討しました(Franchini et al., 2020)。分析の結果、出場選手達の平均年齢は男性25.4歳、女性で24.歳だったことがわかりました。この結果は、多くの陸上競技と同様に、20代中盤にそのピークがあることを示しています。競技での成功を考える上では、第1に身体能力のピークが多くの選手で決め手になるのでしょう。


オリンピック vs. 世界選手権

興味深いことに、オリンピックの出場選手で、世界選手権の出場選手より、わずかではありますが平均年齢が高くなりました。論文中のグラフから判断しなくてはならないので正確ではないのですが、1-2歳の差でした。これは4年に1回開催されるオリンピックが、毎年開催される世界選手権よりも、柔道選手にとって価値のある大会であることを示しています。また、多くの国で世界選手権がオリンピックの選考に使われるため、その順序が影響した可能性もあるでしょう。

階級

階級についても年齢差があり、体重が軽い階級で年齢がわずかに若くなっていました。これにはおそらく減量が関わっていると考えられます。年齢が上がるほど代謝が落ちてくるので、一般に減量が過酷になります。柔道は前日計量ですが、計量時との差が5%以内でなくてはならず、水抜きなどの急激かつ一過性の減量はできません。それが影響している可能性があります。

オリンピックに出場する柔道選手は、男女とも平均でおよそ25歳。この年齢ですと、身体的にはたいていピークにあります。そのようなピークにあるパフォーマンスを楽しめるオリンピックは、観客(視聴者)にとって本当に素晴らしい機会だと私は思います。

引用文献

・Franchini, E., Fukuda, D. H., & Lopes-Silva, J. P. (2020). Tracking 25 years of judo results from the World Championships and Olympic Games: Age and competitive achievement. Journal of sports sciences, 38(13), 1531-1538.
・Haugen, T. A., Solberg, P. A., Foster, C., Morán-Navarro, R., Breitschädel, F., & Hopkins, W. G. (2018). Peak age and performance progression in world-class track-and-field athletes. International journal of sports physiology and performance, 13(9), 1122-1129.

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