スパーですぐ息があがってしまうんですが、走った方がいいですか?
走るのが好きなら、走るのも良いと思います。トライアスロンやマラソンなどの競技とブラジリアン柔術を両立させている人もいます。
ただし、ブラジリアン柔術の競技力を上げたり、スパーを楽しむ体力をつけるために長距離を走るなどの持久力トレーニングはそれほど効果がありません。
SAID原則
競技力向上に向けたトレーニングでは、SAID原則というものが知られています。これはSpecific Adaptation to Implied Demandsの頭文字をとったものです。日本語だと特異性の原則と言われます。トレーニングの効果は、特異的で限定的だということです。ですから、ただ単にツラかったり、大変だったりするだけでは効果が上がりません。競技特性を考えて、それを高める種目を選ぶ必要があります。
ブラジリアン柔術の競技特性
ブラジリアン柔術の場合、ジョギングのようにずっと一定の動きをすることはまずありません。むしろ、動く時とそうでない時が、はっきり別れ、かつ、それが長く続くという特徴があります(別のnoteに書きました)。緩急があり、瞬発的な力が必要になります。長距離を走るトレーニングでは、この緩急に対応できず、瞬発的な力は全く向上しません。
さらに長距離走などの持久力トレーニングは筋力を低下させることが知られています。そもそも上のSAID原則は、持久力トレーニングによる筋力低下を問題視したHickson (1980)の研究に端を発します。最近では、筋肉の組成に関しても明らかになっており、分子的なレベルで筋肉の成長を促すシグナルをブロックしたり、栄養の取り込みを阻害したりすることがわかっています(レビューとして、Barr, 2006)。こういうことがわかってきたので、大昔ですと野球部はやたらと走っていましたが、最近だと(ちゃんとしたところなら)昔みたいには走りません。
長距離走のような持久力トレーニングは、ブラジリアン柔術のように緩急が必要で、瞬発的に力を使う競技には良い影響を与えません。体重を落とす目的以外で、長距離走などをトレーニングに組み込む選手は、ある程度の競技レベルになるとほとんどいないでしょう。体重にしても、運動で落とせる分は高が知れているので、むしろ食事の方が大切です。
レスリングの競技者も、長距離走などの持久力トレーニングはまずしません。走るとすれば、階段や坂道でのダッシュや短距離のインターバル走となります。これは、長距離走と違い、爆発的なパフォーマンスを発揮するのに適したトレーニングです。HIITなんかも良いと思います(別の機会に書きます)。
打撃があると走ることに別の意味で加わるので、話が変わってくるのですが、組技ですと長距離走には大した効果がありません。もちろん走るのが好きだったり、楽しかったり、快適だったりすればどんどん走れば良いのですが、競技力や競技の上でのスタミナの向上とは違う話ということです。
引用文献
・Baar, K. (2006). Training for Endurance and Strength, Medicine & Science in Sports & Exercise, 38, 1939-1944.
・Hickson, R.C. (1980). Interference of strength development by simultaneously training for strength and endurance. European Journal of Applied Physiology and Occupational Physiology, 45, 255-63.
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