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【小説】時の砂が落ちるまで 番外編「ヴィンセントの手記」
気がつけば、非常に狭い空間にいた。指で押し開けると、目の前の壁が開く。空間の外に出てようやく、自分が何に入っていたのかを知る。その周りにも、同じような形の棺が、たくさん並べられていた。
「……そうか」
私は死んだのだ。一人目の妻の家族が開いたパーティーに招かれ、出された料理を食べて、急に息ができなくなって。きっと、あの料理の中に強い毒でも入っていたのだろう。己の無用心さを悔いる。
私に恨む資
【小説】時の砂が落ちるまで 番外編「セシルの手記」
私の一族は、代々レジー侯爵家の使用人として主人の世話を担当してきた。しかし、未だかつて、あんなに自由奔放な侯爵は他にいなかったと思う。
私が仕えることになった次期侯爵のヴィンセント様は、艶やかなダークブラウンの髪と青い瞳を持つ少年だった。十歳という年齢ながら、既に次期当主にふさわしい明晰な頭脳と礼儀作法、ダンスの腕を備えていた。
ただ唯一欠点を挙げるなら、大変な悪戯好きというところだ。ご主人