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【美術展2024#61】日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション@東京都現代美術館
会期:2024年8月3日(土)〜11月10日(日)
ひとりの精神科医が集めた日本の戦後
高橋龍太郎コレクションは、現在まで3500点を超え、質・量ともに日本の現代美術の最も重要な蓄積として知られています。本展は、1946年生まれのひとりのコレクターの目が捉えた現代日本の姿を、時代に対する批評精神あふれる作家115組の代表作とともに辿ります。
本展が手がかりとするのは、戦後世代のひとつの顔としての高橋龍太郎の視点です。団塊の世代の始まりとして育った彼は、全共闘運動に参加し、文化と政治が交差する東京の60年代の空気を色濃く吸い込んだのち、精神科医としてデイケアをはじめとする地域医療の推進に尽力します。その活動が軌道に乗った1990年代半ばより日本の現代美術のコレクションを開始し、現在に至るまで作品を収集してきた高橋は、現代美術の動向を受け手として内側から観察し、表現者とは異なるかたちでその重要な部分を体現してきた存在といえるでしょう。本展では、高橋龍太郎コレクションの代名詞ともいえる1990年代から2000年代にかけての日本の自画像のような作品群だけでなく、東日本大震災以降に生まれた新たなコレクションの流れを、時代の感覚の変化を映し出したものとしても紹介します。
高橋龍太郎コレクションの形成は、1995年に開館した東京都現代美術館の活動期と重なっています。東京という都市を拠点に形成されたこの二つのコレクションは、互いに補完関係にあるといえるでしょう。一方それは、バブル崩壊後の日本の、いわゆる「失われた30年」とも重なっています。停滞する日本社会に抗うように生み出されたこれらの作品を、高橋は「若いアーティストたちの叫び、生きた証」と呼びます。本展は、東京都現代美術館がこれまで体現してきた美術史の流れにひとつの「私観」を導入しつつ、批評精神にあふれる日本の現代美術の重要作品を総覧する、貴重な機会となるはずです。
高橋龍太郎コレクションといえば、昨年WHAT MUSEUMで行われた「ART de チャチャチャ 日本現代アートのDNAを探る」展に行った。
WHAT MUSEUMくらいのスペースなら数ある手持ちの札からその度にテーマを決めてどうにでも企画を展開できそうだが、今回は東京都現代美術館の2フロアをフルに使っての展示となるので高橋氏も都現美も相当な覚悟が必要だったはず。
だがそこをしっかり埋めつくしてなお余りある個人コレクションってのが相当ヤバい。
これは楽しみ。
いざ入場。
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村上 隆
初期作品群。懐かしい。
夏に京都で最新の村上隆を見たばかりなので、ここからあそこまで行ったのだなあと感慨深い。
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こちらは2022年東京国立近代美術館MOMATコレクションでの村上隆。
支持体の厚みや兵士の数や配置が違う。
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悪ノリYouTuberのハシリのような貴重な90年代の記録映像。
それこそ若き日の村上隆なんかもちょいちょい映り込む。
90年代の新宿・銀座のおおらかな雰囲気、登場人物の髪型や服装、スマホ無き時代の大袈裟な機材、そしてそれらを荒々しく映し出すブラウン管のテレビ。
諸々全て涙が出そうになる程懐かしい。
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会田 誠
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裏から見ると結構ボロい襖が使われていた。
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ガムテープに新聞紙。
マジなのか、はたまたあえての作り込みなのか。
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西尾 康之
これ20年前くらいのガンダム展に出品されていたけど高橋コレクションだったんだ。
セイラさんの唐突な荒ぶりや無茶振りが元ネタだが、初代ガンダムが放映された1980年前後、この作品が発表された2005年、そして現代、今見ると各時代でその辺りの社会的感覚のズレみたいなものも感じれて面白い。
造形物としての圧力がまず凄まじいのだが、それに加えてサブカル、時代感覚、ジェンダー、戦争、彫刻技法、などなど様々な文脈や引用や問いが内包されており、時が経つほどにそれらの意味が深まっていく。
しかしこんなバカでかいの個人で買うって高橋氏も相当イカれてるな(いい意味で)。
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…とか、個別にじっくり見ていたらキリがない。
とにかく作品一点一点の熱量がハンパない上に物量も凄まじいのだ。
氏曰く、
自分の中にいろんなアートの一つ一つのイメージがあって、その領域のイメージを、あるいは想像を超えた作品に出会う時にコレクションしたいなと思うので各々の価値は比較することはできないんですけど、その領域の中で想像を超えたものっていうのがあるとすれば、僕の基準になっているような気がします。
その言葉通り、否が応にも高橋氏の「基準」が会場に渦巻いている。
そこにはいわゆる「心地いい絵」や「きれいな絵」はない。
今まで体験したことのないものが描かれていると興味を引く。
心地いいと思うのはだめ。
心地悪くて、でもそこから逃れられないというのが一番好き。
作品から滲み出る執拗なまでの圧がぐるぐると体にまとわりついてくる。
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高橋氏のすごいところは最前線のプライマリーギャラリーを自らの足で巡って、将来どうなるかわからない駆け出しの若手作家の作品も独自のフィルターを通してしっかりとコレクションしているというところ。
歳を重ねても若い感性を持ち続け、かつしっかりと取捨選択できるその頭の柔らかさは素晴らしい。
正直コレクションの中には市場では箸にも棒にもかからずに金銭的価値が発生していない作品や、すでに作家活動を辞めてしまっている作家もそこそこいるはず。
だがそれらも含めて90年代から日本現代美術の同伴者として高橋氏が見てきたアートシーンが、「高橋コレクション」という形で日本近現代美術史の(決して細くない)支流の一本として脈々と流れている。
会場は地下に移り、この辺りから空気感が変わってくる。
契機となったのは東日本大震災。
その辺りの心境の変化は公式動画の中でも本人が語っている。
2022年の森美術館の個展で見直したChim↑Pom。
実は正直それまでネタ的な人たちと捉えていたのだけれど、ちゃんとアートしていた(森美術館の見せ方もまたうまかったのだが)
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吹き抜けには小谷元彦の巨大像が。
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そして鴻池朋子の幅25mの巨大作品!
とにかくでかい。
通常サイズの作品は主に寺田倉庫に保管しているようだが、巨大作品のために群馬の方にもでかい倉庫借りているらしい。
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弓指寛治の絵もでかい。
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そして細部もやはり圧がすごい。
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春に西洋美術館で行われた「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?」展で一番気になった作家。
やっぱり良かった。
この人も「ここは未来の〜なりえてきたか?」展に出品していた。
そしてその作品もとても記憶に残っている。
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この作品もひそやかでありながら、だが強い。
しかし物量あり過ぎて通路が狭い。
これなんかどう歩けと。↓
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平日の比較的空いてる時間帯に行ったからまだ良かったものの、これ会期終了間際の週末とかになったらどうなるのだろう。
とにかく続く。
この辺でもう圧にやられて瀕死状態。
いつ終わるのこれ。
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まだだ、まだ終わらんよ。
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後半はSIDE COREとかChim↑Pomとか現代の路上系に興味を持っているのがわかりやすく提示される。
最後の作品は意外だったが、だけどなんだかリアルだった。
優しくて美しい閉じ方だと思った。
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そして、やっと終わった。
丸々3時間弱。
一点一点みっちみちに圧が満ち溢れてる作品群だったのでとにかく疲れた。
空腹時にラーメン二郎でついうっかりマシマシにしてしまい、出てきたバケモノを涙ながらになんとかやっつけて店を出た後の放心状態。
おわかりいただけるだろうか、ゲフッ。
今だったら先日ディスった内藤礼も優しく受け入れられるかも。
(とか思ってつい先日放映されていた日曜美術館(内藤礼の回)を見たけれどやっぱりイラっとしてしまったが、それはまあいい)
しかし高橋氏も80歳を目前にしている。
そう遠くない将来訪れる自らの死後に残された膨大な作品群の処遇をどのように頭の中に描いているのだろう。
コレクターとしてはコレクションがいいとこ取りされて虫食い状態になり細々と分散してしまうという事態は避けたいはず。
高橋氏はもう金なんかいらないだろうから、自らの名を残したコレクションとして丸々引き継いでくれるような場所にすでにアプローチしていると思う。
そしてそれを引き受けられるのはやはり東京都現代美術館しかないのでは。
もしくはコレクションを持たない国立新美術館が方針転換でごっそり引き受けるとか。
だが、東京都現代美術館は1995年開館。
高橋氏は1997年に本格的にコレクションを開始。
都現美は現在約5800点のコレクションを持つとのことだが「高橋コレクション」を一手に引き受ければ一気に一万点近くまでコレクションを増やすことができる。
歴史も傾向も重なるのでストーリー的に一番美しくまとまる気がする。
(今回の展覧会は実はそのための伏線という筋もあると思っている)
もしくはウルトラCで前澤友作氏あたりと協同して新しい私立美術館を建てるとか。
いずれにせよ貴重なコレクションを分散させてしまうのは日本近現代美術史にとって損失だと思うのでなんとか何処かに気概を見せていただきたい。
95〜97年は私の浪人から美大入学時期に重なり、都現美や「高橋コレクション」の歴史は、私がリアルタイムで見てきた日本現代美術史ともそっくり重なるため尚更その行方が気になるのだ。
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