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【美術展2025#07】栗林隆 Roots@神奈川県立近代美術館 葉山

会期:2024年12月14日(土)〜2025年3月2日(日)

栗林隆(くりばやし・たかし/1968-)は、長崎に生まれ育ち、現在はインドネシアと日本を往復しながら活動するアーティストです。活動開始から一貫して「境界」をテーマに、ドローイングや、インスタレーションや映像などの多様なメディアを用いて身体的体験を観客にうながす作品を国内外で発表してきました。

彼の作品は、自然と人間の関わりに対する本人の深い関心から生まれてきました――展示室の中に和紙で作られた林が広がる《Wald aus Wald(林による林)》(「ネイチャーセンス展」2010、森美術館)、そして薬草による蒸気で満たされた、原子炉の形を模した構造物の中で他の鑑賞者とともに過ごす〈元気炉〉シリーズ(2020-、下山芸術の森 発電所美術館ほか)、タンカーを様々な生態系が共存する一つの場として、さらには思想や作品を運ぶプラットフォームとして捉えた《Tanker Project》(2021-)などといった作品は、いずれも私たちの認識を揺るがすような刺激に満ちています。

本展は、そうした作家の視点によって生み出された、葉山館展示室外のさまざまな空間を利用した個展となります。本来展示空間ではないスペースのために発案されたインスタレーションをはじめとして、未発表のドローイングや映像作品なども展示することで、近年ますます活躍の場を広げている作家の過去と未来の「境界=今」をご覧いただきます。

神奈川県立近代美術館 葉山


現在展示室は改装中だが展覧会が行われるという。
さて、作品はどのように展示されているのだろう。

入口脇に何かある

船の船首。
栗林氏の近年の代表的モチーフであるタンカー登場。

《Tanker Project in The Museum of Modern Art, Hayama》 2024

栗林氏は《Tanker Project》において、タンカーを様々な生態系が共存するひとつの場として、さらには思想や作品を運ぶプラットフォームとして用いているとのこと。
今回の展覧会は「タンカーの中を美術館にする」というプランのもと、船首と船尾で美術館を挟み込んで建物全体をタンカーに見立てている
なので入口にはその船首部分が。

会場1ではタンカーの胴部に見立てたエントランスホール一面に重油を溢れんばかりに注いだドラム缶が並ぶ。

《Tanker Project - Barrels》 2024

ドラム缶の上には木の断片が収められたガラスケースが積まれている。
木は一見ひと繋がりのようにも見えるが、実際はガラスケースで仕切られているので細切れになっている。

重油に反射して木は水中に根を下ろしているようにも見えるが、もちろんガラスで遮断されているので水分は補給されないし、そもそも重油からは養分を吸い取れない。
数あるボックスの中には湿気が溜まっているものやカビが生えているものもある。
やがて枯れゆく運命にある木々は人類のメタファーだろうか。

我々人類が自然環境を守ろうなどとはむしろおこがましいことであり、我々人類という生物は、今一度地球の一部であることに目覚めるべき時が来ているのではないだろうか。

展覧会作家あいさつ文より

重油に支えられた生活の上に成り立っているガラスのように脆い現代社会。
はたして我々人類を積むタンカーはどこに向かうのだろう。

端には「ヤタイ」が置かれる


中庭に出るとこちら側からは船尾が建物を挟み込む。

遠巻きに見つめるイサム・ノグチの《こけし》


会場2は通常展示では使用しない講堂を用いている。

《Betonhaus 2024》 2024

入口の作品を横目にして、奥の部屋では《el-Mabka:Roots2024(嘆きの壁)》と題されたインスタレーションが展開される。
照明を消した暗い部屋に並べられたドラム缶とともに壁一面をスクリーンとして映像作品が上映されている。
映像は6本。
作家の「作品としての映像」かと思いきや今までの作品の「ドキュメンタリー映像」で、全て見ると2時間以上かかるとのこと。
いつもだったらこのようなドキュメンタリー映像はスルーするかさらっと見る程度だったと思うが、今日は幸いこの後の予定が何もないのでちょっといくつか見ていくか。
ちなみにこの室内は写真撮影不可。

いつもは廊下に置かれているこのソファー↓が今回は暗い展示室内に置かれている。

ELAN Sofa

このソファー↑は座高が低いのでどかっと座ると手前に並べられたドラム缶が邪魔して映像の画面下部が見えない
あえての高さ設定か?
画面が見えないから「嘆きの壁」なのか?
タイトルからイスラエルのエルサレムを連想したが元ネタとの直接の関係は無さそうだ。
(後で図録の作家インタビューを読んだら「漠然とわからないものの象徴」としてこの語を用いたとのことだった。)

エルサレムの「嘆きの壁」

誰もいない部屋でソファーにでろ〜んと座って淡々と進む映像をぼ〜っと見ていたらうとうとしてきてつい1時間くらいマジ寝しちまった。テヘペロ


本来は廊下としての場所が会場3とされている。
中庭越しに葉山の山を望む大きな窓が心地よい。
ここには今までのプロジェクトで使われたオブジェたちがアーカイブ的に展示されている。
ちなみにこのスペースはひとつひとつの作品のクローズアップ写真は禁止だが、全体を展示風景として撮ることは許可されている。

今までの栗林氏の活動に詳しければ、色々な小ネタが仕込んでありそうなので細部まで楽しめそうだが、実は私はそれほど詳しくなかったので、雑然と作品が並ぶ舞台裏の楽屋のようだなあと思う程度の、場の雰囲気を味わうくらいの楽しみ方しかできなかったのが悔やまれる。

スケールの大きな作品やプロジェクトをいくつも展開してきている作家なので、そのひとつひとつをそれぞれ深掘りして広いスペースで丁寧に展示をすればもっと作家や作品の魅力も発揮できるし理解も深まるだろうなあと思った。
大前提として展示室改装中の展示だったのでスペース不足は仕方ないのだが、図録には過去の作品群がひと通り載っていたのにそれらがアーカイブ的にさわり程度の断片しか扱われていなかったのが残念だった。
改装が終了したらぜひ館全体を使って回顧展のような大きな展覧会を行ってほしい。


鑑賞を終えて外に出る。
この美術館は海沿いに建っており、その海を背にすると葉山の山が広がっている。
さすが旧皇室別邸跡地に建つだけあって最高のロケーションだ。

美術館の周りを歩くこともでき、その遊歩道には彫刻作品が並んでいる。

葉山の海
杉本博司風に海景を撮ってみる
遊歩道を歩く
キャプションが埋められている
いた
李禹煥 《項》1985
若林奮 《地表面の耐久性について》1975

駅からのアクセスは良くないが、この美術館にとってはそれがマイナスにはなっていないような気もする。



【美術館の名作椅子】↓


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