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酒屋が教えるワインの教科書 ワインの醸造 1

 ワインの醸造

 ワインの醸造とはぶどうを発酵させて、ワインを造る技術や作業です。ぶどうはブドウ糖、果糖などの発酵可能な糖分を持っています。ビールや日本酒のようにデンプンを一度、糖化した後に発酵させる必要がなく、ぶどうが持っている糖分をすぐに発酵工程に入ることが出来ます。

 ぶどう果皮自体には多くの天然酵母が付着しており、ぶどうを潰して放置すれば、果汁の糖に作用して発酵が始まります。古い歴史を持つ地方や伝統を重んじる醸造家などでは天然酵母による自然発酵を行っています。しかし、近年では多くの醸造家は天然酵母による発酵は好ましくない微生物の繁殖を招く恐れがあるので優良な純粋酵母を培養し、発酵させる方法を多く採用しています。

 発酵とはアルコール発酵のことであり、酵母菌の生み出す酵素の作用により糖がエチルアルコールと炭酸ガスに分解する化学変化のことです。発酵によって生まれる成分の多くはアルコールであるが酵母によってぶどうの物質から二次的物質(副産物)と呼ばれる成分が生合成され、ワインの品質や味、香り、性質を作り上げます。二次的物質(副産物)の主な物質はタンニンや芳香性物質(アロマ成分)、有機酸等であり、それらの成分分析によればビタミン、ミネラル、塩類、エステル等、数100種類におよぶ成分が確認されています。

 ワインの醸造は複雑で繊細な作業が必要となり、赤ワイン、白ワイン、ロゼワイン、発泡性ワイン、甘口、辛口、リキュールワインなどのタイプや種類によって、醸造工程も違ってきます。

赤ワインの醸造

 黒ぶどうを原料にして造られ、選別したぶどうを破砕機にかけて、余分な香味が無いように房の木質部や茎を取り除きます。いわゆる除梗を行います。(中には除梗をしないで発酵させる醸造家もいます。)

 粉砕後の黒ぶどうの果汁は果皮や種子を含んだまま発酵槽(オーク材、ステンレスタンク等)に入れて酸化防止と有害な微生物の繁殖を抑えるためにSO₂(亜硫酸、通常はメタ重亜硫酸カリ、K₂S₂O₂)を少量加えます。

 発酵は果皮や種子に含まれる香味を引き出すため白ワインよりもやや高めの温度25°から30°で行われます。発酵槽が開放タンクだと発酵が進むと果皮が表面に浮いてきます。果皮をそのままにしておくと有害な微生物やバクテリアが繁殖するので定期的に攪拌したり、タンク底部からポンプでくみ上げて発酵を均一にする作業(ポンピングオーバー)を行います。密閉タンクではこの作業は不要となります。

 発酵が進むとぶどうの果皮に含まれるアントシアニン色素が溶出してきます。次第に色素によって発酵液が色づいて濃くなってきますが果皮や種子を長く置くとその果皮や種子が色素を吸着するので発酵液に色が薄くなってしまいます。そのため発酵液の色を見ながら2週間ほどで果皮や種子を取り除きます。発酵が終わるとアルコールを含んだ発酵液となりますがぶどうの果皮や種子と言った固形の粕を分離させます。分離したワインは自然流出ワイン(ヴァン・ド・グート)と呼びます。一方、粕の方は圧搾作業を行い、色も濃くタンニン成分も多いワインを圧搾ワイン(ヴァン・ド・プレス)抽出します。

 果皮や種子など取り除いたワインはまだ酵母や酒石などを含んだ澱として残っています。その澱を沈殿させるためにコラージュ(澱下げ)と言う作業を行い、澄んだワインにします。さらにろ過や冷却法で酒石を結晶させ、微細菌を死滅させる熱処理をして貯蔵します。

赤ワイン醸造1

白ワインの醸造 

 白ワインの原料となるぶどうの果皮の色はどうであれ、果肉の色に大差はないと言うことです。白ぶどう品種から造られる白ワインの他にシャンパーニュなどに使うピノ・ノワール種は黒ぶどう品種になるが果肉だけを用いて醸造すれば白ワインとなります。白ぶどう品種の果皮や種子を使った場合はやや黄色を帯びたワインになります。

 白ワインの醸造は摘み取られたぶどうは破砕機にかけられ、つぶされた果汁はさらに圧搾機にかけます。ここで果皮や種子をすぐに取り出して果汁だけを発酵させます。発酵温度は赤ワインよりも低めの20℃から22℃で発酵させます。白ワインは赤ワインと比べると繊細でデリケートな味を追求するため、果皮のみならず果梗や種子まで取り除くのは渋みや酸味が出し過ぎるのを防ぐためです。また、甘口から辛口までの様々なタイプを造るのはぶどうの糖度と主発酵の終わる段階での発酵具合の操作で決まります。辛口の場合は完全に糖分がなくなるまで発酵を続けます。

 甘口白ワインは糖分がリットル当たり20g以上あることが特徴です。甘口の残糖の多い貴腐ぶどうのように酵母糖分を食べきれずに自然に発酵が止まるタイプと発酵を途中で止めて、適切な糖分を残すものもあります。発酵を途中で止めるには亜硫酸の添加、冷却、ろ過処理、遠心分離機による酵母の分離を取る方法があります。

白ワイン醸造2


 次回はロゼワイン、シャンパーニュの醸造です。

マガジンにしました。 酒屋が教えるワインの教科書https://note.com/masutaka_note/m/m49ac080d0803


参考文献

葡萄は語る           SOPEXA フランス食品振興会

世界のワインカタログ      サントリー株式会社

NHK趣味の園芸         NHK出版


 


 


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