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小枝と雛鳥 其の六
翌、早朝。
雨は上がっていた。
東の雲は、切れ切れに伸びていて、その隙間から薄日が射している。
息子がアルバイトに出掛けたついでに庭に出て、南天木の枝を覗き込んだ。
雛鳥は、いなかった。
昨夜は、大粒の雨だった。激しく降り頻(し)く時間もあった。
風も、強く吹いていた。
恐る恐る、地べたを見る。
小さな鳥の亡骸が打ち落とされてはいないか。
まずは、南天の根元。
その横の山茶花(さざんか)。満天星(まんてんぼし)、躑躅(つつじ)、白梅…
一歩一歩、慎重に探す。
けれども、鳥の亡骸らしきものを見つけることは、出来なかった。
半時ほどして、夫が起床。
雛がいなくなっていることを伝えた。
夫は、朝食前に畑の手入れをするのが日課になっている。
彼もまた、雛を探したようだった。
「階段のほうも見たけど、いないね。猫か烏が、捕って喰ったかな」
充分に考えられる。野良猫も烏も、我が家にとって、珍しい客ではない。
彼等だって命をつなぐためには、食べなければならない。
「ま、雨が降る前に、親と一緒に帰ったんじゃないの。ああ見えて、
案外逞しいんだよ」
夫は、敢えて楽観的に言った。
「そうだね」
不器用ながらも、精一杯の心遣いを見せる夫に感謝しつつ、私は、二人分の茶葉を急須に入れた。
つづく