時代を超えて信じるアートの力~ブックレビュー 原田マハ「暗幕のゲルニカ」

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文章スタジオ東京青猫ワークス
「『読むだけ』の人から『伝える』人へ! ブックレビューの書き方入門』にて昨年課題として作成したものです。
コロナ禍の一日も早い収束と、
安心して劇場やホールで芸術・エンターテインメントの“生”の感動を
満員の観衆と共有できる日々が戻ることを願い投稿します。
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巨匠ピカソの大作「ゲルニカ」。
学生の頃に教科書で誰もが目にしている作品だ。
当時、あまりの不気味さに恐怖で目を背けた経験のある人も多いのではないだろうか。もちろん私もその一人だ。
それなのに今尚、世界中の人の心をとらえてやまないのは何故か?
そんな疑念を抱いている方に是非お薦めしたい作品だ。

 同時多発テロ後のアメリカ。
ニューヨーク近代美術館のキュレーター・八神瑤子は、テレビのニュースで国連ロビーに飾られているはずのピカソのタペストリーに暗幕がかけられているのを目撃する。
『暗幕のゲルニカ』の前ではアメリカの国務長官がイラクへの軍事攻撃を宣言していた。
一方、1937年にピカソはナチスドイツによる祖国スペイン「ゲルニカ空爆」の報せに憤り、その想いをスペイン政府から依頼されたパリ万博で展示される絵として表現していく。
この2つの時代が「ゲルニカ」を巡って交錯していく物語である。

 著者の原田マハ氏は小説家の前に美術館のキュレーターとして働いていた経験があり、その経験を活かした「アート小説」は特に高く評価されている。
山本周五郎賞を受賞したアンリ・ルソーの晩年を描いた「楽園のカンヴァス」、
ゴッホと弟テオの苦悩を描いた「たゆたえども沈まぬ」など、彼女だから描ける真に迫る表現や、事実と虚構が入り混じる画家像は読者の心にリアルに刺さる。

 芸術や娯楽は、悲惨な事件や事故の際には無力なものとなり、自粛を余儀なくされることもある。
だが理屈ではなく、観る者や聴く者に形ではない豊かさを与えてくれる存在にもなり得る。
その「豊かさ」に心を慰められる人が多くいること……時として、芸術は救いになってくれることを、作品を通して実感させられる。

 主人公の瑤子、そしてピカソ。時代は違えども、目の前の傷ついた人々のためにひたむきにアートの力を信じ、時の権力に立ち向かうエネルギッシュな姿に、ページをめくる手が止まらない。
物語が進むうちにいつしか圧倒的な「ゲルニカ」のパワーと世界観に魅了されています。


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