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「時間」と「消費」を考える②

今日も『誰もが時間を買っている』の続きを書こう。

当たり前の話であるが、何かを消費している間は、それ以外のことに時間を使えなくなる。これは単純な話ではなく、経済学的観点から考えるといくつかの背景がある。

例えば、友人とランチをして1500円を払ったとする。この時に失われたのは、ランチを食べる時間+1500円だと思われるが、実はそれだけではない。仮にランチが1時間だとすると、その1時間働いていれば1000円が稼げたかもしれない。この時、失われたのは1時間に加えて、計2500円を失ったことになる。この時手に入れらていたかもしれないバイト代1000円のことを「機会費用」と呼ぶ。

また、ランチがつまらなくてアルバイトをしていた方が良かったと思う時は、そのチャンスを失ったという意味で「機会損失」という呼び方になる。


しかし、我々の生活の中で大切なのは、時間やお金ではなく個人の満足度である。これを経済学では「効用」と呼ぶ。最も大切なのは効用(満足度)が高いかどうかである。かけたお金や時間が効用を必ず高めるというわけではない。

この効用に影響しないモノが例えば、「商品を選ぶ時間」である。レストランのメニューでもAmazonに出てくる商品一覧でも悩む時間はその消費するモノの満足度はとは直接関係がない。悩む時間をたっぷりととってもその満足は消費対象によって決まる。この取り戻すことのできない時間を「埋没費用(サンクコスト)」と呼ぶ。

一番残念なのは、選択をすることに時間をかけたが、満足が得られなかったというパターンである。

では、こういった消費に関する失敗を減らすにはどうすればよいか?その方法は主に三つ挙げられる。

①以前に消費したことのある、価値があるとわかっているモノを選ぶ。
②有名人の紹介やサイトのレビューなどを参考に選ぶ。
③購買履歴などに基づきカスタマイズされた、自分へのオススメから選ぶ。

これらの方法をとると失敗する確率が下がる。


最近では、Instagramなどに「インフルエンサー」と呼ばれる、オススメの商品を紹介する人物がいる。そして人々がインフルエンサーの紹介するモノを買う理由として以下のように述べられている。


「消費者がインフルエンサーの情報を求める理由の背景にあるのは、商品の選択に際して失敗したくないという気持ちがあり、選んでも大丈夫なものかどうかを気にしているということです。」


つまりインフルエンサーは一見、単に商品を紹介しているように見えるが、消費の観点からみると、消費者の失敗したくないという思いに応え、消費者の消費に悩む時間を減らし、減算時間価値を提供しているのだ。

また、スマホの登場は人々の生活を大きく変えた。例えば電車の移動中やちょっとした待ち時間をメールや情報収集、勉強などに充てられるようになった。スキマ時間を有効活用できるようになったのだ。

しかし、そのスマホのせいでまとまった時間(カタマリ時間)が侵食されるという事態になってしまった。多くのプッシュ通知やメッセージ、メールなどがひっきりなしに届くようになった。それをは以下のように述べられている。


「スマホは確かに「スキマ時間」を利用可能にしたのですが、同時に、それが日常の様々な場面に割り込んでくることで、「カタマリ時間」さえも寸断されてしまい、落ち着いた時間を過ごすことができなくなっているのです。これは減算時間価値の提供をもたらしたスマホによる弊害のひとつだと言えるのではないでしょうか。」


スマホに向けられる意識は我々の生活や体験を蝕んでいるのだ。ムダな時間を減らすための仕組み・アイテムがかえってムダを生んでしまっている。


また「待つ」ということも消費とは関係が深いようだ。

消費者はできる限り、並びたくない、待ちたくないというのは本音であろう。それでも多くの人が有名ラーメン店やAppleの新商品の発売に並ぶのには商品に対する期待度が関係している。以下引用。


「それほど期待していないものがでてくるまでに時間がかかると、消費者には「待たされている」という感覚が芽生えます。この「待たされ時間」は、たとえ短かったとしても、消費者にとって大きなストレスになります。」


コンビニでレジ前に並ばされるのと、流行りのラーメン店に並ぶときの心理の違いはその期待度にあるのだ。

ただ、待たずに入れる、待たずに買えるということが必ずしもメリットであるかというとそうではない。

例えば、ある病院の待ち時間がいつもなかったとしたらどうだろうか。本当に大丈夫なのか?やぶ医者では?という疑念を抱いてしまう。

「待つ」ことは忌避されるが。あまりにも人気がないと、逆に不安を与えてしまうのだ。これは、あまりにも安い商品や食品をみて、本当に大丈夫なのか?と思うのと同じである。

「待ち時間」は単純なようで難しい。意識せずとも消費活動の大きな部分を占めているのだ。


あらゆる時間的な限界が突破されている今、鈴木先生はこれからの消費には「加算時間価値」を高めることが重要だと述べる。それは例えば、メインの消費時間の前後を消費に組み込むといった形や消費時間そのものの満足度を高めるという方法である。それに成功したサービスや企業が伸びていくのだろうと思う。

「時間」と「消費」は切り離すことのできないものなのだ。


誰もが時間を買っている。


【参考】

鈴木謙介『誰もが時間を買っている 「お金」と「価値」と「満足」の社会経済学』2019 セブン&アイ出版




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