『銀花の蔵』
今までとは一線を画すファミリーヒストリー。
『銀花の蔵』遠田潤子
絵描きの父と料理上手の母と暮らす銀花は、一家で父親の実家へ移り住むことに。そこは、座敷童が出るという言い伝えの残る、歴史ある醤油蔵だった。家族を襲う数々の苦難と一族の秘められた過去に対峙しながら、昭和から平成へ、少女は自分の道を歩き出す。実力派として注目の著者が描く、圧巻の家族小説。(Amazonより)
作者の著作は何冊かは読んでいて、陰鬱とした雰囲気が常に漂う、曇天が似合うような
ずっしり暗い物語が特徴で、そこにハマってしまっていたけど、今作は少し違う。良い意味で暗さが薄くなり、それ以外の、家族のつながりという部分に更に焦点を当てて色濃くなっている。
幸せとは言えない環境で育つ主人公が成長するにつれ明らかになっていく、家族のほころび。でもその経験を積むたびに、血は繋がっていなくても、故人含め強固なものになっていく人々の絆。「家族」や「血筋」というある種固定観念のようなものが重要視されてきた時代からの変遷を通して逆説的にその繋がりの強度は増していく。
悲しい出来事が背景や土台にはあり、主人公の祈りはなかなか簡単には叶わないけれども、客観的には気づけない当事者たちの想いや覚悟がこれでもかと伝わってくる。
大切な人に対して「赦し」の気持ちを持つことができるか、「罪ではない罪」を受け入れて食いしばって前を向けることができるか、明るく読みやすい雰囲気になっても作者のどっしりとした読み応えはそのまま。
こんな物語も描けてしまう作者は今後どれだけ素晴らしい作品を生み出してくれるのだろうかと更に期待感が高まる一冊だった。
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