『凪に溺れる』
進化した瞬間を目の当たりにした気がする。
『凪に溺れる』青羽悠
自分にも劇的な未来が待っている。
そう信じられなくなったのは、いつからだろう――。
16歳にして小説すばる新人賞史上最年少受賞を果たした鮮烈なデビュー作、『星に願いを、そして手を。』から三年。
現役京大生となった若き才能が、〝青春の難題″に立ち向かう!
読了後、静かな感動と勇気が押し寄せる、「救い」の物語。(Amazonより)
デビュー作である前作も16歳とは思えない達観した心理描写に驚いたけど、今作は間違いなく傑作。人が化ける過程を目撃できた。今年の色んなところの年間ベストランキングに入ってくると思う。
もちろん作品に著者の年齢なんて関係ないっていうのは大前提だけど、シンプルに自身が到達していない年齢の登場人物の心象を描写できるってものすごいことだと思う。経験の数ゆえなのか、積み重ねてきた思考がそうさせるのか。
カツセマサヒコの『明け方の若者たち』でも感じたけど、東京で社会人以前以後を過ごした大抵の人が少なからず経験する苦悩や葛藤、高揚感と絶望を静かに描いている。
個人的には今までの読書体験からはあまり感じ取ってこなかった、『繰り返し』によって増幅する思いや信念ってのを学んだ。思いの強さや折れても立ち向かう粘りとかではなく、ある意味淡々と静かにブレずに繰り返し続けるからこそいつか結実する力。
主人公の十太からも、夏佳からも、祈りとも表現されているその行為のある種寒気がするような凄みを感じた。そして主題歌である『凪に溺れる』も各章を通してどんどんエネルギーが増していく。
各篇の主人公に対して、読んだ人それぞれが親近感を湧く人物が見つかると思う。諦めとの向き合い方に苦悩した正博が個人的には一番感情移入した。
悲しい途上を経たとしても、波は伝わり繋がっていき物語は止まらずに希望を含ませながら続いていくラストも素晴らしかった。
少年時代の瑞々しさ、若者の青臭さ、人生の節目で迎える苦しみ、様々な感情を蘇らせた上に更に丸裸にされたような読後感を味わわせてくれる素晴らしい作品だった。
蛇足だけど、久太、十太、希っていう名前の繋がり方も好き。