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『N/A』

面白さで痺れた。


『N/A』 年森瑛


選考会で異例の満場一致!
第127回文學界新人賞受賞作

松井まどか、高校2年生。
うみちゃんと付き合って3か月。
体重計の目盛りはしばらく、40を超えていない。
――「かけがえのない他人」はまだ、見つからない。

優しさと気遣いの定型句に苛立ち、
肉体から言葉を絞り出そうともがく魂を描く、圧巻のデビュー作。(Amazonより)



文章の切れ味、当たり前とされる価値観への疑い、多様性という名の枠での狭め方など、個人的にめちゃくちゃ刺さる部分が多かった。


”何度会っても、うみちゃんとの会話のほとんどは脊髄反射に近かった。身体の中に浸透しない。ぶつかったものを打ち返すわけでもない。ひたいの十五センチ手前くらいで、上澄みの言葉だけで跳ね返っていく会話だ。”


”そういえば話す途中に顔のパーツがあちこちに分裂したり、かと思いきや急に中心に集まって、目の中で温泉卵の臭いが発酵し出すところは、見覚えがある、恋をしている人の様子だった。”


”まどかは当事者性なんて一つも持っていなかった。身体的特徴と食生活以外に、その属性の枠組みの中にいる人とまどかが共有できることはほとんどなく、世の中が想像する属性のイメージとも適合しないのに、まどかへ向けられる態度は、その属性への対応として推奨されるものばかりだった。”


思春期だからというわけではないけど、自身へ投げかけられる視線を(あたかも)俯瞰で冷静に見れていることによる鋭い思考は、読んでいてハッとさせられるし小気味いい。おそらく朝井リョウの『正欲』読んだことある人は、共通する部分見つけて頷ける部分が多いと思う。


でもそのある意味傲慢さを伴った考え方は、あくまで自分自身に関するものであって、他者がどんな考えでいるか、どうやって自分の気持ちを最善の方法で投げかけるかという点においては思い上がりと至らなさが露わになっていく。苦境にいる友人へのLINEの送り方とか、元カノが今も自分に固執していると考えているところとか特に。恥ずかしさと無力さを経験した上でのラストの一言は、120ページ弱という短い物語の中での少女の大きな成長・変化を感じずにはいられない。

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