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忙しいのにアンニュイ

私は喫茶店でアルバイトをしていた。そのお店は駅前にあり出勤前のサラリーマンや学生、主婦で大忙しだった。    

ある昼下がりいつものように慌ただしくオーダーを取りに行くと、そこには気だるそうにタバコをふかす三十代と見える女の人が座っていた。
 
「ブレンド」

面倒くさそうに吐き捨て、その人はまたタバコを燻らしながらスマホを触った。私はなぜかその人が気になってしばらくオーダーを伝票に書くことも忘れていた。

タバコを吸いながら何を考えているのだろうか。仕事が嫌でやめたい、または忙しすぎる。彼と上手くいってない 、あるいは結婚を前にマリッジブルー。一体そんな見事なまでのアンニュイさを何が演出させているのだろう。

私は突然仕事でで忙しいのにアンニュイな気分に浸りたくなった。休憩中にタバコを買いに走り、バイト先は禁煙なため近くの喫煙所で人生初のタバコに挑戦してみた。

周りの人は見事なまでのアンニュイな雰囲気に包まれてタバコを口にしている。スマホを忙しそうに触りながら器用に吸っている人もいたけれど。私はおもむろにタバコの封をあけ、恐る恐る吸ってみた。 

私は見事なまでにむせた。こんなものでアンニュイな気分に浸れるのかと信じられない気分になった。  しかしこんな所でくじけていては何も始まらない。私は初めてのタバコを1本吸い終えた。

急いでバイト先に戻ってまたクソ忙しい仕事に取り掛かった。アンニュイ気分に包まれたあの人はもう姿を消していた。残念だ。もう少しお手本を見ていたかったのに。

家に帰ってすぐ私はまたタバコに手をつけた。やはりむせたがとりあえず何本か吸ってみた。ダメだ、全然アンニュイな気分にはなれない。吸うことに必死で気分など味わえない。

そして次の日もバイトのシフトが組まれていたがタバコのことが頭から離れない。朝から何度も吸ってみたけどやはり慣れはしない。ダメだ、これではアンニュイ道を極めることはできない。

私はバイト中にもそのことばかり考えるようになった。おかげでミスばかりして店長に怒られまくり挙句の果てにはクビになってしまった。

どうしようか。クビになってしまって途方に暮れた。こういう時にこそタバコないんじゃないか。そうふと気づいて私はまたタバコに火をつけた。

その頃にはもうむせることはなくなっていた。それどころかタバコを美味しいと思うようになっていた。火をつけて燻らせて、息をハーっと吐く。コレってもしかしてアンニュイな気分ってこと?私はやっと何かを勝ち取った気がした。

しかしタバコ嫌いな彼には振られた。新しい仕事を探す気にもなれない。アンニュイな気分がどんななのかは理解できたけれど、他のものを私は全て失ってしまっていた。


【了】

(1095文字)


#青ブラ文学部

山根さん、よろしくお願いいたします。


素敵な週末をお過ごしください✨

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