燻製の季節:ベーコン大好き(3)いかにして世界最高のベーコンを作るか
大げさな話である。世の中にないものを作るなら、それは唯一であるのだから世界最高である。一人一人にマッチした食べ物を自分で作るという「幸運な病のレシピ」のポリシーはこの時から存在していた。
人まねしていては、自分らしさは出せない。自分自身として生きるマニュアルなどはない。
日々の料理作りも同じだ。お店で弁当買って食っていてもいいのだが、碌な死に方はしない。
「時間がない。家事から開放された。食事は大事だから専門家に任せるべきだ。」などとメディアやネットでよく見かける。メディアやネットのスポンサーは「医者(自分は検査値が正常だからケンコウだと思いこんでいる数十年前の知識を売る専門家)」や「食事売り(弁当売るスーパー・コンビニ、利益重視の食堂、乾燥麺やレトルト売る方々)」だ。
そして、問題はそういう物を食う他に選択肢のない社会のパーツにされている人々である。食事をするたびに税金のように自分の人生の一部を吸い上げられる。
食事売りは医師の太鼓判付の食事を売る。そしてその食事は、検査値を異常にする。医師のよく効く薬は検査値を正常にする、しかし、検査値の異常の元の悪化はそのまますすむ。やがて、沢山の薬をのみ同じ様な手術を繰り返して「点滴、経管栄養、胃瘻」と体中管だらけになって病院で孤独に死ぬ。
統計的に、そうなる。実によく出来たキャッチボールである。
最高の人生(ピンピンコロリ)を送るには覚悟が必要だ。食事作りは大変なのだ。てシピ本に書いてあることを毎日続けられるわけがない。
だから、おんなじような本が次々出版される。もし社会を変えたいのだったら、違ったアプローチが必要だ。
この記事は1997年当時にベーコンを作る会社を作った時のお話の一部です。
ベーコンは販売しておりません。小さなキャンプ用のスモーカーでも美味しいものが作れます。楽しいですよ。作ったら教えて下さい。火事には気をつけてね。かんたんなことでしたらアドバイス差し上げます。
1)肉にこだわる
随分トライヤルを重ねた。ネットなどない時代である。仕入れ問屋さんに話を聞いていいメーカーを探した。資料を探したのだが、この時決めた会社についての情報は見つからなかった。
肉には一番こだわった。屠殺してから一回も冷凍されていない物、国内産の肉でかつ脂身に厚みについても比較した。ベーコンは脂身を食べるものだが、厚すぎるのは間違えである。運送工程においても、氷を小さい袋に入れて、少し溶けるくらいの状態到着するかを確認した。
2)最初にぶら下げる紐を通す
一番最初に紐を通す。この先はスパイスを混ぜたりするのでここでしっかりと紐打ちするのだ。
タコ糸は、左官用の水引糸を使うのがいい。肉に穴を開けて通すために太めのステンレス針金を曲げて作った道具が有る。なんとこれは今でも持っている。取手の部分は熱湯で形成できるプラスチックを使った。
肉の端を貫通させて出たところにタコ紐を通して引っ張る。一回貫通したところで縛るとよい。上からこれで下ろすことが出来る。買った人が紐で吊るしてオブジェに出来る。
2019年版ではこの工程は面倒なのでフックを使うことにした。これもまた良し悪しである。肉に針金を通す時に危険なのである。しかし利点も多い。
3)ニンニクに漬け込み
まず、ニンニクに漬け込んだ。このまま4−5日でも美味しい。風味の下味になる。
紐付けが終わったらニンニクに漬けた。今でも残念なのは、市販のオロシニンニクを使ったことである。フードプロセッサーが上手く動かないで気に入った量と状態が手に入らなかった。手間の問題である。
4)唐辛子と塩で漬け込む。
漬け込んだスパイスは塩抜きで落ちるのだが、香味が残る。ペッパー味のベーコンも多いが、あれは漬け込むときは使っていないのではないかなあ。塩抜き後につけているような気がする。
僕のベーコンのスパイシータイプは唐辛子を使った。
唐辛子は、御徒町に行ってお店を回った。ソフトの打ち合わせで時折上京していたのだ。製品にした時、塩はゲランドの塩を箱で買った。食べた感じはあまり違いないのだが、気持ちである(笑)。
このぐらいでしっかりと揉んだ。
5)3−5日、漬け込む。
数日経つと塩が肉に染み込み、スパイスが独特の風味を出す。漬け込みの時間の長さは難しい。セロリなどの香味野菜を入れることも有ったが唐辛子に収斂した。
加工肉の発酵工程である。海外の加工肉においては発酵工程を通るものも多いと思う。生ハムなどはカビを生えさせるものも有る。
何とも恐ろしい色合いである。この工程で作ったベーコンは「スパイシー」と名付けた。今は、風乾後の工程でまぶすことも有るが、漬け込みでこれだけ使うのは面白い。唐辛子の本場ではこういうやり方するかねえ。
6)塩抜き
この工程が一番難しい。抜きすぎても残っていてもダメだ。平野屋は乾物屋で、塩鮭を北海道から仕入れて塩抜きをしていた。近くに一軒まだ鮭の塩抜きをする問屋さんが生き残っていた。そのお店の先代は僕の父と同級生だった。
冷蔵技術のない頃は「塩の漬け抜き」は大変重要な技術であった。そして、必要のなくなった技術は忘れられる。多くの派生物と一緒に忘れられる。文化というのは多くの細かい物がワンセットになっているのだ。
肉の内側までしっかりと塩味が入っている。そしてそれを抜くのだ。長期保存のための技法が旨さを引き出すのである。定期的に未伊豆を帰ることにした。流水も考えたのだが、夏場の管理が難しい。ここまで長く塩漬けはしたことがことがなかったので、塩抜きも難しいものだと知った。
当然、マニュアルはない。自分自身でトライアルを続けながら最適なものを探すのである。少しずつのロットで、味を探していった。沢山の人に食べてもらい意見を聞いて調整した。塩っぱさが一番のキーだと分かった。
いかにも食肉加工である(笑)。焼いて塩味をみた。
7)風乾
乾燥した環境で乾かすのだ。結構色々とやった。ウオークインの冷蔵庫で枠を作ったのであるが、水滴が落ちて閉口した。結局はポリのゴミバケツをいくつか買って中にぶら下げた。
写真が見つかりません(笑)
8)燻煙
このときは、テストなので炭でスモークした。
スモーカーの周りを囲っているのが木であることは分かるであろう。火事の元だ。目を離してはならない。本番に使うものはオールステンレスになっている。
大きな事故は火災である。脂に引火すると大きな焚き火になる。紐が燃えるのだ。2019年には家を燃やそうとした。僕のスモーカーは過去に2回火を吹いたことが有る。保温なために可燃物(ダンボール)を使ったからである。これはやってはいけないことであるが、中心温度が上がらないと辛い。
部位それぞれに番号をつけて布に書いてスモークの出来を見た。
9)完成
美味しいベーコンが一丁上がりである。食いたいだろ。
まだスモーカーのスペックも決まっていなかった。本数とここまでのコストで販売価格を決めなければならないのだ。
販売計画を考えて、収益から投資を決めねばならなかった。
かかったコストで金額は出るが、売れるか売れないかは市場が決める。ブランディングして、なんとか高く売ろうと思ったが、まだネットなどの力はなかった。今考えるとこの時代の変化は面白い。
今ならクラウドファウンデーションを考えるところだ。とは言っても、僕はあれは好まない。なにせ、商品ができるかどうかもわからないままにカネを集めるのである。そしてやはり、「食事」という商品を作るのだから問題は解決していない。
コミュニティが出来上がるならいいが、そうとも限らない。考えさせられる。僕はもう友人のためにしか作ることはしないつもりである。
食いたければ友だちになって下さい(笑)
僕はここが好きだ。一匹からあまり多くはとれない。
燻煙が終わって出来たては絶品である。食いたいだろう?
こういう部位もまたベーコンらしい。厚めにトウトツと切って食らうがよろし。脂も固まっていなくて溶けるようであった。バーボンに最高のつまみだ。そう言えば、昼から飲んだ(笑)。役得である。
真ん中辺りだ。お客さんはこの辺が好きだという(笑)。確かに、このゴッツさはいい。お金をいただくのだから、あまり端っこはやれない。ある程度の厚さは必要だ。段々決まっていった。
まさに一つ一つが違った顔立ちである。