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夢見モグラは空を待ち侘びて 52日目

モグラはベッドの上で、
自分の思い出せる、最も古い記憶について考えていた。
気づいた時には地下の世界で暮らしていたが、
それよりも前に、
自分は一体どこで、何をしていたんだろうか。
そんなことをふと疑問に思った。
朦朧としていく意識の中、
それまでの記憶の手がかりがどこかにあるような気がして、
頭の中で方々に散らばっていた、
かけらのような思い出を一つずつ拾い集めては、
両手の中に強くイメージして、
なんだか違うなあと思ってクシャクシャと丸めてゴミ箱に投げた。
そもそも記憶が自分のものであるか、
他の誰かのものであるかの判別もつかなかったし、
知らない名前で、聞いたことのない名前で、
自分のことを呼んでいるその景色に、
違和感と懐かしさを同時に覚えていた。

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一番古い記憶の話


思い出せる子供の頃の1番の古い記憶は、
ラッキーのことだ。
当時3〜5歳くらいかな、向かいの家では、大きな犬を駐車場の隅で飼っていた(調べるとシェットランドシープドッグに似ている、もしくは雑種)。
ラッキーと一緒に遊んだとか、そう言う思い出は特になくて、
ただ金網越しにじーっと見つめあった記憶が、
僕の記憶の始まりの地点に登録されていて、
それよりも古い記憶は全く思い出せない。
ラッキー以前、ラッキー以降。なぜだろう。理由はわからない。
ハーハーと舌を出して、少しだらしなく笑って見えるラッキーの顔が僕の知る僕の人生の始まりなのである。
まあラッキー(大凶とかではない)なだけよしとしておこう(単純)。

以降、おおよそオリンピック周期で、真剣に動物を飼いたいと、
両親の前で時に泣きながら、時に頭を下げながら、
手を替え品を替え、あの手この手を尽くし、訴えかけた記憶がある。
その度に、ダメだ、いつか死ぬから、という理由で、
その主張は退けられてきた。
(いつか死ぬのはみんな一緒なんじゃ…。)
子供心にそんなことを思いながらも、
単に綺麗好きだし、家族にアレルギー持ちがいたのかもしれないし、
生半可な決意の僕を試す意味合いもあったのかもしれない。
それでも、いつか死ぬから、という言葉は、
自分の心の中に深く刻まれている。

さあ、大人になって独り立ちしたらもうこっちのもの。
僕は迷わずペット可の物件を条件に入れて住む場所を探していた。
それでも結局、夢の動物との生活は実現には至っていない。
もう少し時間の使い方に余裕が持ててからでないと、
自分の仕事もうまくいかないし、
もしかしたら寂しい思いをさせてしまうかもしれない。
責任を持ってもう一つの命を預かる、という覚悟ができないままである。

近所に住む友人の夫婦がウィペットという、
毛並みのとても美しくてスタイリッシュな、中型の犬を家族に迎え入れることになった。僕は美味しいケーキを取り寄せたから、とか、美味しいお肉をいただいてしまったから、とか、書いていた本が完成したから、とか、ことあるごとに、何か理由をかこつけては定期的に会いに行き、溺れるように愛でながら、賢い犬に(ウィペットはとても賢い)適当にあしらわれ続けている。
あまりに賢いので、もう少ししたら喋り出しそうな気がしているし、
この前ははしゃぎすぎて転んでしまった後、すごく恥ずかしそうに照れていて、
わかりやすくどよーんと落ち込んでいて、本当に人間なんじゃないかと疑った。
今現在の僕の1番の相談相手でもある。

そんな欲求も相まって(?)、
僕のアイデアストックの中には、
いつか犬の犬種毎にタイトルをつけて、性格を加味した歌詞を書いて、
一枚のアルバムを作ってみたいなというメモがある。


M1 Siberian husky
M2 Cocker Spaniel
M3 Jack Russell Terrier
M4 Afghan Hound
....


みたいな。
ブルドックはきっと歪んだギターが鳴るし、
イタリアングレーハウンドは軽やかに早めのビートで。
毛並みの綺麗な子は綺麗めなおしゃれなアレンジをしたいよね。

ただ、僕以外他のメンバーは全員猫を飼っているので、
このアイデアはBIGMAMAでは一生採用されないと思うし、提案するのも気がひけるので日の目を見ることはきっとないだろう、ワオーン、という話。
それではまた明日。ワオーン。

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本日表紙は__pepeandさんの写真を使用させていただいております。


褒められても、貶されても、どのみち良く伸びるタイプです。