ユーザーフレンドリーなプロダクト開発の参考にしようと、ガンダム45周年の記念キットをユーザビリティの観点で分析してみました
みなさま、こんにちは。株式会社インダストリー・ワンのデザイナー、吉川です。
インダストリー・ワンは「DXの社会実装」に向けて、お客さまのご要望に応じたプロダクト開発も行っています。私はプロダクトのUIUX領域を担当し、ユーザーフレンドリーな仕組みづくりを通じて、お客さまにDXの成果を実感していただくことを目指しています。
そんな「ユーザーフレンドリーなプロダクト開発」には、ユーザビリティへの配慮が欠かせません。私はこれまでのキャリアを通じ、ユーザビリティの要素や原則を学び、実務で実践することを重ねてきました。
こうした原理原則を体得するには、実際のシステムやプロダクトに触れ、事例として学ぶのが近道です。その一方で、(ユーザビリティはシステム評価の指標ではあるものの)広く他分野にも事例を求め、分析する態度も重要と考えます。
例えば『機動戦士ガンダム』シリーズの生みの親・富野由悠季監督は、アニメ・漫画制作に関し、次のように語っています。
なるほど……。
というわけで、2024年の今年は「ガンダム45周年」。メモリアルアイテムとして、ちょっとユニークなキットが発売されました。「昔はガンプラを組んでいたけどその後離れていった」層をターゲットに、子供の頃を思い出しながら、プラモデルの進化を体験してもらう商品です。
この「進化」、私のような「ガンプラから離れ損ねた」人間には当たり前となっている代物ですが、商品に込められた「ユーザーフレンドリーの追求」は凄まじく。
そこで本記事では、ユーザビリティの観点による分析を通じ、最新ガンプラというプロダクトの「凄み」と、ユーザビリティ評価の応用例とを、みなさまにお伝えできれば……と思います。よろしくお付き合いくださいませ。
「ユーザビリティの5要素」でガンプラを分析
ユーザビリティの原理原則に関しては、ユーザビリティ研究の大家であるヤコブ・ニールセンの定義が有名です。ニールセンは「ユーザビリティを構成する要素」として、以下の5つを挙げています。
今回はこの5要素に基づいて、以下の商品を分析したいと思います。なお、近年のガンプラはキットの設計・製造と、付属する組立説明書(取説)との両面で、「模型ビギナーでもストレスフリーで完成できる」ためのノウハウが投入されています。そこで分析対象は、キット本体と取説の双方とします。
ベストメカコレクション 1/144 RX-78-2 ガンダム (REVIVAL Ver.)
組立説明書(取説)
では「ユーザビリティの5要素」別に、この商品がどのようなノウハウを投入しているか、順に見ていきましょう。
学習しやすさ
取説冒頭で商品特性のアピールも兼ねて、組み立て上のルールを案内。
ルール案内は組み立て工程を示す図版、文章、ピクトグラムで説明。
→ 一度目を通すだけで、ルールを踏まえた組み立て工程に進むことが可能。
効率性
パーツは手で取り外すことができ、はめ込むだけで固定される。
同色のパーツ配置では、頭・胴体といった部位ごとにパーツが集約。
→ ニッパー、接着剤といった工具不要で、パーツ探しに困らない。
記憶しやすさ
部位単位で取説を構成。まず各部位の組み立て結果を示したうえで、その手順を図解。
図解は実物のパーツ形状に即し、パーツ番号と矢印のみで手順を指示。
→ 組み立てを中断しても、次の組み立て箇所を容易に特定・再開できる。
エラー発生率
組み立てで注意が必要な箇所には、取説上に注意文言が記載。
左右の判別が必要なパーツには、裏面に「L」「R」の刻印あり。
肘・膝などの可動軸は挟み込みではなく、はめ込み式の構造となっており、誤って組み立てても取り外しが可能。
→ 取説とパーツ整形の両面で、組み立て上の注意点をフォロー。組み立てミスからのリカバリーも配慮。
主観的満足度
組み立て後、正面からは合わせ目が見えないようにパーツを設計。
多色成形によるパーツ構成で設定どおりの色分けを再現し、塗装が不要。
→ 加工・塗装をせず、組み立てだけで完成できる、という達成感を提供。
まとめ
いかがでしょうか? ガンプラの「ユーザーフレンドリーを達成するためのノウハウ」を「ユーザビリティの5要素」に基づいて分析してみました。
ちなみに、こうしたノウハウは一朝一夕で生まれたものではなく、40年以上に及ぶ商品改善の歴史、すなわち技術研鑽と経験の蓄積がもたらした成果でもあります。
※私は「ガンプラから離れ損ねた」人間なので、その進化をずっと見てきました……。
この進化は、メーカーがユーザーの声に耳を傾け、「アニメファンの模型ビギナーであっても組み立てやすい模型」というビジョンを追求してきたことが基盤となっています。結果、ガンプラはユーザーフレンドリーを極め、「ヒトがモノに接するうえでの効果性」=ユーザビリティという指標にも叶う商品に至りました。
周囲に目を向ければ、ほかにも様々な商品・サービスが、ユーザーフレンドリーであろうとしています(そして反面教師となるものも……)。私も作り手のひとりとして、あらゆる接点を学びの場とし、自身の携わるプロダクトに還元していきたいと思います。
みなさまもそのような目で、ご自身が好きなもの、感心したものを見つめ直し、その良さをもたらすものは何か? 思いを巡らせてみてはいかがでしょうか? 私も引き続き研鑽のため、未開封のまま積み上がったプラモデルに手をつけねば……ということで。