バットの進化から見る、フルスイングが増えた理由
バットの進化は野球の進化である
野球でおなじみのFull-Countさんが面白い記事をあげていました。野球のバットについての記事です。
野球が生まれてからまもなく200年、競技の進化とともに道具も進化してきた歴史があります。
野球博物館などに飾ってある昔のグローブは”これで捕れたの?"と思うような今とは全然違う形をしています。
ボールも今ほど精巧に作られておらず、ゆがんでいたり糸のほつれが多少あったりします。
バットについてもやはり昔から見ると徐々にその形や重さは変わってきていて、その歴史の変遷そのものが野球の今後の姿を考察する上で面白い手がかりになるのです。
バットの形状の変遷
野球のバットは元々は角材やクリケットなどのパットが使われていたことも あったようです。それは、打つ面が平らになっている形状のもの。そこからルールの整備などもありまず最初に先端に重心のある大きなハンマーのようなバットが流行します。
野球の神様ベーブルースが使っていたバットはなんと1010gもの重さだったそうです。今ではまず考えられません。
その後、革命を起こしたのはやはりタイカップでしょう。グリップエンドに球根のような形状をあえて作り、これによりバットのヘッドが返るのを早くする効果を狙ったもので、我々のような選手としてのタイカップを知らない世代でもあのバットの形状を見ると誰もがタイカップと言います。
しかし不思議なものでタイカップは今も昔も、主流のモデルにはなっていません。いつも一部に熱狂的なファンがいる、そんな個性的なバットがタイカップモデルです。
日本では藤村富美男選手の物干し竿バットと言われた長尺のバットや、落合博満選手や中村紀洋選手などあえて長いバットを使いその操作性を向上させることで独自の打撃を身につけ活躍してきた名選手たちもいます。
そんな中時代はバットを少しずつ短くし、少しずつ軽くしました。ベーブルース選手のように1kgを超えるバットを使っている選手はまずいません。
今では900gを下回るバットも一般的になってきました。
おそらく 850g 前後が平均値になっていく日も遠くないのだろうと思います。
野球をやった経験のない人からするとあまり実感が持てないかもしれませんが、このたった数10g の違いは野球においてはめちゃくちゃ大きいのです。毎日バットを振っているからなのかわかりませんが、 例えばいつもより30 G 重たいバットで練習するとそれだけでかなり違和感があり、ヘタをするとその日一日で調子が狂います。
T シャツですら前後が逆になっていても半日くらい気づかないハナタレ坊主の子供でもバットの数十グラムの違いはおそらく顕著にわかると思います。僕自身がそうでした。
それが150 kmを超えるボールを打つプロの選手からすれば形状が1mm違うだけで、重さが10g 違うだけで全然結果が違うものになってしまうのですから、その繊細さは想像を絶するものでしょう。
バットは素材も変わってきている
さらに日本ではバットの材料として主流だったアオダモの木は今はほとんどなく、メープルやホワイトアッシュという木が主にバットの材料として使われてます。アオダモの特徴は、しなりやすく折れにくい。 昔の選手の映像を見た時にバットとボールが吸い付いているようなホームランが多いように見えるのは昔の選手はこのバットの特徴をうまく利用した打撃だったからです。
それに対してメイプルやホワイトアッシュはしなりにくく堅い。反発係数はこちらの方が高いものの、芯を外した時には折れやすい特徴もあります。当然この違いは打撃スタイルにも大きな影響を及ぼしました。
今のプロ野球選手がフルスイングをする選手が非常に増えてきたのはメジャーリーグの影響だけではないと思います。
例えばイチロー選手はあえて芯を外して内野と外野の間に落とすヒットを打っていました。イチロー選手も現役の途中からはアオダモの使用が原材料の関係で難しくなりましたが、ずっとアオダモを好んで使っていました。
つまり、わざと芯を外してフルスイングをせず詰まらせてヒットにする打撃は芯以外では、しならずに折れてしまうメープルやホワイトアッシュにはあまり合わないのです。
落合選手なんかもよくドン詰まりみたいなあたりでセンター前に落としているヒットを打っていたのですが、あれは明らかにバットのしなりを利用して計算された打撃です。最初からしなりにくいバットではあの打撃は生まれませんでした。
何故最近はあんなにフルスイングする選手が増えているのか?
さらに現代では投手のスピードはどんどん上がり球種はどんどん増えています。しかも増える球種は基本的に速くて小さい変化のボール。三振を取るというよりは芯に当てずに凡打をとるようなボールが多くなっています。
そのボールについていけず芯を外されてしまえばバットは折られてしまい、ヒットにはできません。
そうなると当然速くて小さい変化にも対応できる打撃とバットにしなければいけません。
速くて小さい変化にも対応できる打撃とはフルスイングです。なぜならば、速くて小さい変化で芯を外され、バットを折られるくらいであればついていけずに空振りの方がリスクが少ないわけです。ちょこんと当ててヒットというのを狙うのは難しくなってきますからフルスイングができれば結果的にそれが体制が崩されてもある程度の力でスイングができるわけです。
そして、速くて小さい変化に対応できるバットとは、お察しの通り”軽いバット”です。シンプルにボールが速くなっていて、変化も速くなっているのであれば、バットも速く動かなければ追いつきません。そうすると当然バットは軽くなっていくわけです。
その分フルスイングしていますし、現在の選手を見てもわかるように飛距離にはほとんど影響はありません。
今後の流れとしては基本的にこの流れで投手はどんどん球が速くなる、打者は少しずつフルスイングになり、バットは軽くなっていく、というのがしばらく進んでいくと思います。
それを考えると、これまでのように体が大きく明らかにパワーで飛ばすタイプのバッターだけでなく、山田哲人選手のような一見すると身体は小さいのにそのスイングスピードの鋭さでホームランを量産するタイプのバッターも増えてくるような気がします。
そうやって、時代に合わせて活躍できる選手像というのも変化していくし、それを予想していくのがスポーツの楽しみ方の一つですね。
㎰.
今回、初めて道具というものにフォーカスしてみましたが非常に面白かったです。これはシリーズ化してみたいなと思いました。道具や歴史からスポーツを見ることで新たな発見がたくさんありそうな予感がしてます。
バットで言うと実はここ数年進化しているのは軟式バット。それについてもいつか書いてみたいと思いました。