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地獄の深夜バスでカブ天国に行ったらカブ地獄だった話。

物語は前回のセーブポイントから続く。
ちなみに旅のセーブポイントとは日記やブログ、SNSの更新ログを指していると僕は思う。

無事に護送用トラックでバスターミナルに着くと一台のバスに人集りができている。
どうやらあのバスが僕らのなるバスのようだ。
乗客は次々と荷台に荷物を詰めて、乗車する列を作っている。

他に何台かトラックが止まっているので我々のようにして、ここに運ばれてきた人たちが他にもいるのだろう。
ナオ君と急いでメインのバックパックを荷台に放り込むと我々も乗車の列に並んだ。
しかしなかなか乗車できない。
前方でなにやら乗客と車掌と揉めている。さらには降りてくる奴までいる。

「とりあえず行こうか。」

僕らは列を気にせず運転手に詰め寄って、チケットを無理やり見せて乗車した。
降りてこようとする客を押し除けて乗り込んだ車内には乗客の怒号が響き渡っていた。

「どうなってるんだ!!!」

Fから始まる言ってはいけないあの言葉も飛び交う。
彼らは口々に何か言い合っている。
車内は異様な雰囲気だった。
ナオ君は他の乗客の様子に戸惑い始めている。

『もしかして・・・・。』僕にはある不安が頭をよぎった。

僕は前から3列目の自分の席を覗いた。
『やっぱりそうか・・・・・。』
そこには知らないカンボジア人のおじさんが座っている。

「これどういうことすか?」
振り向くとナオ君の席にも知らないおじさんがいる。

「このバス・・・。怪しいと思ったんだよな。」
「どういうことすか?」

ナオ君はめちゃくちゃ困惑しているし、想像を超えた事態に知らなかった乗客は車内で怒りを露わにしている。

このバスはとんでもない寝台バスだったからだ。

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実はチケットを購入した時からどうも胸騒ぎがしていた。

「上のベッドか下のベッド?どっちがいい?」
前日、宿の近くのバスターミナルでこのバスのチケットを買ったときのことだ。

東南アジアや中国には寝台バスというものが走っている。
読んで字の如く、席がベッドになっている長距離バスだ。
日本の長距離バスは道路交通法の関係だろうシートタイプの長距離バスしかないが、これらの国では深夜帯や長距離路線になるとこうしたベッドに乗客を寝かせて運ぶタイプのバスが走っている。

横になって移動できるので体への負担が少なく、長距離ほど助かる。
それに価格も安いうえに、夜行便なら宿代の節約にもなる。
バックパッカーにとっては言う事ないしの優良交通手段だ。

「上の段がいいな。」
「列は前の方か?後ろの方か?」
「真ん中くらいがいいな。」

渡されたチケットには『C6』と印字してある。

「隣っすかね。」

ナオ君のチケットは『C8』だ。

何か嫌の予感がする。
『数字がデカくないか?』と不安に駆られたが口には出さなかった。

『まぁ何かあったら何かあった時だ。』その時考えよう。

この予感が的中したのだ。

バスの構造は通路を挟んで2列にカーテン付きの寝台が上下段で並んでいる。
ベッドは少し大きなシングルベッドだ。
前からA・B・Cと続いていき、番号はそれぞれのブースを表している。

僕の番号は前から3つ目の並びの上段6番、ナオ君は隣の上段8番である。
ただ上段には5番と6番の組み合わせと7番と8番の組み合わせが割り振られている。

これはAには4つのブースと8つの席があるということだ。
つまりA1とB1は同じ座席というか、同じベットを使うということだ。

だから、僕のブースには『C5』のチケットを持った知らないおじさんがいる。
これから数時間をこのおじさんとこのシングルベッドで一緒に寝ないといけないという地獄のような事態が起きているのだ。

ほとんどの乗客がこの事態を把握せずにこのバスチケットを買っていたのだろう。
だから降りようとする奴や、車掌と揉めている奴がいたのだ。

「最悪っすね。どうしますか・・・。」

実は僕はこういうバスの存在を知っていた。
それはルアンパバーンでのことだ。
夜行バスであの街を出ようとした時にチケットセンターでこの形のバスの存在を教えてもらった。

「お前。一人でこのバスに乗るのか?」
チケット売り場のスタッフが僕が購入しようとしているチケットに対してこう言ったからだ。
「何かあるのか?」
「このバスの寝台は全部ダブルベッドだぞ。」
「はあ????」

親切なスタッフは僕が一人でチケットを買いに来たことを不安視してバスのことを説明してくれた。この時は別のシングルベッドのバスを紹介してもらい難を逃がれることだができた。

キャンセルしたいと詰め寄る乗客、まだ状況がわからずに自分のベッドにいる先客を追い出そうとする者。車内は混乱を極める。

「とにかく状況のわかってる奴とチケットを交換するしかない。」

降りると宣う客をなだめて、車掌は客をバスに押し込んでいく。
そして車掌はチケットの交換会を乗客に持ちかける。

「こうなったらナオ君、一緒のブースで我慢できるね?」

「お前は一人か?何人だ?」とお互い旅人たちは声をあって相方を探す。
僕らはうまく他の旅人たちとチケットを交換して、1つのブースを確保できた。

そんなことをしているから結局バスはまた1時間近く遅れることになった。
走り出してもまだ文句を言っている乗客もいたがドライバーは気にせずバスを発進させ、とりあえず出発はできた。

「足臭かったらごめんよ」
「いやいやこちらこそ。」

我々は頭をお互い逆さになるようにして、各々足にタオルを巻いて眠りについた。
バスは遅れを取り戻すように夜のカンボジアを走りぬけ、明け方には国境ゲートの車列に並ぶことができた。

ベトナム入国待ちをしながら、まだ一緒の奴のいびきがうるさいとチケット交換を持ち出す者、他人のことは気にぜずにもう通路で眠す者、車外に出て夜を明かそうとする者。
カンボジア・ベトナム国境、朝の6時。
我々はやっと次の国に入ることができた。

僕はぼんやり外を眺めながら最初のベトナムの朝日を眺めた。
なんでこんな目に会うんだ。
早朝のホーチミン市に下されて、あまりに眠たくてここからどうやって宿に辿り着いたのか記憶がない。
寝不足気味の我々が宿に着いて最初にしたことはもちろん昼寝をすることだった。

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翌日しこたま昼寝も夜寝もした我々は慌ててまともな行動を開始する。

何せ我々のホーチミン滞在予定はたった二日しかない。
明日にはもうこの街を離れる予定だ。
朝食に本場のフォーを食べた後、我々はバイクを駆ってホーチミンの街中を走り出した。

このホーチミンでの僕の目的は二つ。
どうしても行きたい二つの聖地を巡るためにここに来た。

「一緒に行きますよ。」
ナオ君は実はホーチミンに家族ときたことがあるので特に行きたいところはないらしく。今日は僕に付き合ってバイクの後ろに乗っている。

まず1つ目は永厳寺というお寺だ。
このお寺はベトナム南部では最大級の大乗系仏教寺院で日本の曹洞宗から寄贈さえた釣鐘が吊されている。
前職の法衣店時代にお世話になった曹洞宗の関係寺院なのだからこれは行かないわけにはいかない。

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そしてもう1つの聖地は宗教の聖地ではない。

パークロイヤルサイゴンというホテルだ。
こちらはあの『水曜どうでしょう』のレギュラーシーズンの最終ロケ地をなった場所である。

どちらも意外と近い場所にあるので一緒に回ることにしていた。
そして折角ベトナムなのだから、どうでしょうの最終回と同じようにバイクで行くことしたのだが・・・・。

「やばいっすね。」

放送でもカブ天国と言われるくらいなのだ。バイクの量はとんでもなかった。

朝夕のラッシュ時にはとんでもない量のバイクと車両が道路に溢れかえっている。
道路だけでは足りなくなるとバイクは歩道を走り出す。
前日の晩ちょうど帰宅ラッシュを目にした我々はその光景に引いてしまった。

「こんな中は流石に運転できんよ・・・・。」

万全を期してラッシュを避けて昼前に出発はしたがそれでも想像以上にバイクは多かった。

気を抜くと僅かな隙間をバイクや車が我々をかすめていく。
慣れない右側通行にノールックで右折してくるバイク。
挨拶がわりに鳴りまくるクラクション。

特に怖いのはロータリー式の交差点だ。
日本にもロータリーはあるがこちらのロータリーは巨大すぎる。
四方八方から車やバイクが飛び交う。
抜け出せなくで何周もロータリーを回る。

とにかく必死に運転する。

「やっぱり現地人はうまいなぁ」

僕も10年以上単車に乗っていたが、勝手の違うバイクに勝手のわからない道に戸惑う。

「うまいんすか。」
「見てみ。足もつかずに進んでる。」

混み合った道をうまくアクセルとブレーキを調節して進んでいく。

「ほら全然みんな足ついてないやろ。」

巧みに流れに乗ってバイクが追い抜いていく。
そんな流れは僕には全然見えはしない。
気を抜くとぶつかりそうになる。だから足をつく。それがもっと危ない。
信号以外では止まってはいけない。
止まった瞬間に流れから外れ、四方八方からバイクが迫ってくる。
とにかく止まらないようにして進むしかない。

曲がらなくてはいけないところで曲がれなくて通常なら10分ほどで着くはずのお寺に結局30分ほどかかってたどり着く。

「やばいな。一瞬も気が抜けない。」

気を抜いていい運転なんてないのだけれど、こんな量のバイクに囲まれて走ったことはない。
まるでレースゲームだ。

はるばる日本からやって来て釣鐘を突きに来たのに道中での興奮と到着したという達成感でお参りどころじゃない。
写真は残っているけれど本当にこのお寺の記憶は曖昧なままだ

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ゲーム的に解説するならこれはコンテンツ内のミニゲームだ。
ただ得点はつかないし、ポイント達成報酬もないが達成感はあるので楽しいのは楽しい。

申し訳ないほど一瞬でお参りを済ませてまたバイクにまたがる。

「さぁ次はホテルに行こう!」

次は何が起きるのか。
今度はどんなやばい走りに出会うのか。
指示器なしに入ってくるバイク。横から突っ込んでくる車。抜け出せなくて一周してしまうロータリー。見たことのない標識。

どれも新鮮。

目的のホテルについた時には達成感に満ちていた。
ここに来れたことに興奮していた。

客でもないのにホテルのエントランスにバイクで乗り付ける。
フロントスタッフは遠くから僕らを眺めている。
『あぁまた日本人来た・・・。』くらいに思われているのだろう。

これまでこんなやつらがこのホテルにはたくさん来たと思う。
みんな、バイクと写真を撮ってお参りして帰っていく。

ベトナム人からしたら異様な光景だろう。
誰もエントランスのど真ん中で写真を撮る僕らを注意しに来ない。

「出演者はこんなことさせられてたとか信じられん。」

つくづくあの番組すごいなと思う。

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このあとも街をバイクで走って周り遠く離れたローカルのバザールに行ってみたりと我々はホーチミンのバイクレースを満喫した。

そして翌朝、ホーチミンを離れる朝。

我々二人はラッシュ時のホーチミンの街にまたバイクで乗り出していた。

ナオ君はベトナムでの移動時間短縮の為に国内移動は飛行機を日本で事前に予約していた。

その便が9時のフライトだ。
向かうのはダナンという中部の街で僕もこのあと今夜の夜行列車で同じ街に向かう予定だ。
明日にはまた同じ宿で合流するのでしばし別行動になるだけだった。

「空港まで送るで。バイクまだ使えるし。」
「いいんすか?でも・・・・。」
「まぁなんとかやってみるよ。」

レンタルバイクの返却時間までまだ3時間ほどあったので彼をバイクで空港まで送ることになったのだ。

「昨日一様運転したんだし・・・。」

しかし朝のラッシュは見るのと乗るのではまた一層体感が違がった。
レースの難易度は格段に上がっている。

怖い。昨日の楽しさはどこに行ったのかとにかく怖い。

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後ろからマップソフトでナビをしてくれるナオ君の声に耳を傾けながらこちらは必死で流れらしきものに喰らい付いていく。

「あとこの先のロータリーを真っ直ぐ抜けたら道なりで空港です!」
「わかった!」

おそらくこのロータリーがこのレース最大の難関になるだろう。
前日もロータリーから抜け出せなくて右往左往したのだ。

前方に全容が見えてくる。六本の支線を持つ、昨日より大きなロータリーだ。
四方八方からバイクや車が入り乱れている。
おそらく出口はちょうど前方の3つ目の支線だ。

「いくぞ!」と意を決して侵入し、左方向から迫る波をかき分けながらロータリーの半分を越えた。あとはもう半分を今度は右からの流れを突っ切って真っ直ぐ進むだけだ。

僕は注意を左から右に切り替える。その瞬間。

「いっっっっっっっっっっった!!!!」

後ろで大声を上げるナオ君。

「足、当られた!!!!」
「えっ!?」
思わずブレーキをかけて足をついてしまう。
その瞬間にはもうナオ君の足をはねたであろうバイクは走り去り。

「痛っ!!!」

今度は前方左側。前輪と僕の足が左から突っ込んできたバイクにはねられる。

「嘘やん!!」

そして左からきたバイクは意に介さず僕を一瞥して一瞬で行ってしまう。
そうこうしているとまた今度は右の後方から追突される。

「やばい!!!逃げるぞ!!」

こんなところで止まっていてははねられ続ける。

「ナオ君!しっかり掴まって!」

クラクションを鳴らしまくって右から打ち寄せる大群に突っ込んでいく。
ロータリーを抜け出しそのまま道を突っ切る。
後ろではナオ君が足を揉みながら悶えているようだった。

飛行機のエンジン音が遠くに聞こえる。空港はもう近い。

クラクションは命を守る為に躊躇わずに鳴らすもの。
このレース止まったら負ける。

「どうなってるんだ!」このゲーム。
しっかりダメージ負ったぞ。
空港のゲートを通過してゴールとなるが・・・・・。

『いや!いや!待て!待て!』

僕はここからまだラッシュ時の街を抜けて宿に帰らなくてはいけない。
これは地獄だ。

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