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第7話 リーダーはフォロワーの「内発的モチベーション」を支援せよ!

 今回もお読みいただきありがとうございます。スキをくださっている方、フォローいただいています方々に感謝いたします。今までお話ししてきた中で、動機づけという言葉について何度か出てきたかと思います。リーダーシップの最も重要な機能は、フォロワーの動機づけ機能です。動機づけという用語は、心理学用語ですが、同じく英語表記のモチベーションの方が一般的によく知られ、使用頻度も多いと思いますのでモチベーションについてお話ししたいと思います。
 モチベーションという言葉についても、日常生活や居酒屋等でよく話題となる言葉です。「あの上司のもとではモチベーションが上がらないよ」、「あの人は社員のモチベーションを下げることばかり言っている」「モチベーションの維持が難しい」などと語られたりします。

 モチベーションについて、田尾(1993)は、「何か目標とするものがあって、それに向けて、行動を立ち上げ、方向づけ、支える力」であると定義しています。そして、欲しいという気持ちを満たすものである「誘因」と、欲しいという気持ちである「動因」とがポイントとなるとしています。仮に計算式に直すとすれば、モチベーション=「誘因」×「動因」で表すことができます。足し算ではなく掛け算になっている点に注目してください。このことは、例えば、「誘因」がいくら大きくても、「動因」が0(ゼロ)の場合、掛け算なので、モチベーションはゼロ、すなわちモチベーションは喚起されないということです。具体例でいうと、お店の店頭に、きれいな洋服(「誘因」)が飾ってあっても、その洋服を素敵だと感じて、欲しいと思う気持ちである「動因」が無ければ(ゼロであれば)買おうという行動にはつながらないということです。上述は、一般的なモチベーションの考え方です。

 モチベーションを仕事との関係で考えるワーク・モチベーションは、多くの方々にとって大きな意味があると思います。というのは、以前紹介した、約660万人が就業者であり、そのうちの約9割は会社等に雇用されている雇用者であるからです。ワーク・モチベーションの対象である「誘因」とは、仕事を頑張っている理由にあたります。給料のため、表彰されるため、賞賛されるためという理由で頑張っている人もおれば、達成感を味わいたいため、自己成長のため、仕事そのものが好きだからという理由で頑張っている人もいることと思います。前者の給料、表彰、賞賛などは外部から提供されるもので、外発的報酬といい、外発的報酬を目的に行動することを、外発的モチベーションといいます。一方、後者の達成感や自己成長のためというのは、自己の内なるものであって、内発的報酬といい、内発的報酬を目的に行動することを内発的モチベーションといいます。外発的モチベーションの場合、イメージしやすいかと思いますが、内発的モチベーションの場合、どういうときに、内発的モチベーションの高まり、すなわち「やる気スイッチ」が入るのでしょうか。心理学者のデシは、「自律性(自己決定したい)」と「有能感」と「周囲の人々との関係性」を高めることが内発的モチベーションと関係があるとしています。

 もう一度、仕事以外の事例に戻って説明すると、例えば、子どもの頃の自転車に乗れたときのことを思い出して下さい、そのときはとてもうれしかったと思います。それは、自転車に乗れるようになって、自転車に乗れるみんなの仲間入りをしたい(「関係性」)と考え、自発的に(「自律性」)練習し、乗れた(「有能感」)ということから達成感や自己成長感という内発的報酬を得ることができたからだと考えることができます。ほかにも、鉄棒で逆上がりができるようになったとき、さらに過去にさかのぼれば、誰も覚えてはいないかとは思いますが、おむつが取れて、自分でトイレに行けるようになったときにも感じていたと思います。これらには、「関係性」と「自律性」と「有能性」が満たされているので、とても大きな達成感や自己成長感を味わうことができたのだと思います。

 仕事の中で内発的モチベーションを考える場合、とても複雑になります。それは、給料という外発的報酬が絡んでくるからです。仕事内容そのものに興味が持て、気持ちよく働いているのに、それが給料の査定になるといわれると、突然、気持ちが萎えたり、やる気がそがれたりした経験はありませんか。それは、仕事そのものが楽しいという内発的モチベーションが、給料の査定という統制された状態に置かれたために、「自律性」が損なわれたからだと考えられます。給料が内発的モチベーションに水を差すということは、少し意外だと思う方も多いのではないかと思います。いうまでもなく給料は、最大のモチベーション要因であり、給料をもらう側、働き手にとっては、多ければ多いほど良いに越したことはありませんが、まだまだ欲しくなる。つまり、際限がありません。これに対して、給料を支払う側、企業の方は、給料を限りなく高くすると経営が破綻してしまいます。このようなことから、経営との関係で、どうしても、給与の額を統制していく必要(査定等)が出てくるのです。そして、そのことが内発的モチベーションの喚起につながらない要因です。

 心理学者のハーズバーグは、実務化へのインタビュー調査を通じて、仕事の中でのモチベーションを、内発的な要因である「モチベーター(動機づけ要因)」と、外発的な要因である「衛生要因」という2つの要因により説明し、「モチベーター(動機づけ要因)」が満たされることによってのみ仕事へのモチベーションと職務満足を生むことができ、「衛生要因」は、なければ不満を感じるが、あっても職務不満を防止することができるのみであることを発見しました。主な「モチベーター(動機づけ要因)」には、達成、仕事そのもの、責任、成長等があり、主な「衛生要因」には、経営方針、作業条件、給料、地位、雇用の安定等があるといわれています。

 リーダーシップとの関係でいうと、1人でも部下を持つ任命されたリーダーは、フォロワーの「モチベーター(動機づけ要因)」を刺激することが必要です。しかし、内発的なものなのでフォロワー自身が喚起することです。どうすればいいのでしょうか?
 筆者は、給料や人事評価等をちらつかせるのではなく、リーダー自身の人的魅力を磨き、わくわくするような大きなビジョンを描き、そのことにより、リーダーと一緒にいることや仕事そのものの魅力をフォロワーに抱かせ、フォロワーの自律性と有能感を刺激するために、できる限り仕事を任せることによって、フォロワーが自分の手で、「やる気スイッチ」を押すのを支援していくことが大切だと考えます。

(参考文献)
田尾雅夫『モチベーション入門』,日経文庫,1993年。
Edward L.Deci and Richard Flaste(1995),WHY WE DO WHAT WE DO The dynamics of personal autonomy,Putmam’s Sons,New York(桜井茂男『人を伸ばす力 内発と自律のすすめ』,新潮社,1999年。)
Herzberg,F.(1968),Work and the Nature of Man,Cleaveland:World.(北野利信訳『仕事と人間性』,東洋経済新報社,1968年。)

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