はじめてのメイドカフェで、脳天が揺さぶられた話
【1】
秋葉原に向かう僕は、考え事をしていた。
普段は即断即行を心がけている。しかしながら、こればかりは竜王戦ばりの長考が必要だった。
「メイドさんからどのように呼ばれたいか?」
無難な姓名か、はたまた萌えの溢れるニックネームか。その電車のなかで、僕はきっと誰よりも“真摯”だっただろう。
決めきれないまま日本一の電気街に到着していた。
これから私は、生まれてはじめてメイドカフェに赴く。
【2】
遡ること2週間ほど前。
メイドカフェに行ってみたい旨、公式LINE(ぜひ登録してください)にてポロっと発信した。するとゼミの先輩が反応をくださり、水先役を買って出てくださったのだ。
ずっと興味を持っていた。「メイドカフェ」は漫画アニメや日本食、渋谷スクランブル交差点などと並び、日本を代表するカルチャーであると学んできたからだ。
秋葉原が中心であること。フリフリのメイド服を着用していること。オムライスに絵を描いてくれること。そこに“萌え”があること……
断片的な知識は持っているが、体験が欠如している。知らないことは少ない方がいい。2022年が終わる前に、何としても価値観をアップデートしたいと考え、現在に至る。
【3】
先輩の案内のもと、ある店舗に到着した。白と淡いピンクで構成される外観は、普段の都市体験と比べ明らかに異質だった。
なかからは甘い匂いが漏れる。少し待ち、いよいよ入店だ。
案内役のメイドさんが入店を知らせる鈴を鳴らす。
「ご主人様のご帰宅です」
この瞬間からそこは、僕の成長を見守ってきたメイドさんたちが住まう“我が家”となった。
入り口の対角線、“我が家”を全て見渡せる位置に案内された。多くのご主人様・お嬢様で賑わっており、家主の僕も大変誇らしく思った。
大変久しぶりの“ご帰宅”である僕に向け、メイドさんが色々と説明をしてくれた。
さまざまなコースがあること、提供される水が秋葉原の地下から湧き上がる「萌え水」であること、料理以外の写真を撮ってはいけないこと……。世界はこんなにも広かった。
そして運命的にも、担当してくださるメイドさんはその日が初出勤と言う(マジ)。
はじめの自己紹介で、彼女は「沢山ドジっ子しちゃうと思うんですけど、よろしくお願いします!」と我々に告げた。
僕には、たしかに、雷に打たれる感覚があった。
そうか、そうだよな。沢山ドジっ子しちまうよなあ。
僕は、その瞬間、間違いなくアップデートされた。
「誰もかも、ひとの子はすべてドジっ子である」
失敗してしまうとき、納得がいかないとき、
この考えを胸に生きていこうと思った。
【4】
「萌え萌えきゅん」を数回発動させ、オムライスに絵を描いてもらい、あちゅあちゅの抹茶ラテを楽しんだ。チェキ撮影時は緊張し、笑顔が引き攣ってしまった。可愛くあろうとする女性は素敵だ!
誰よりも“紳士”にサービスを楽しむことを心がけつつ、2店舗を巡った。その話はまたどこかで。少なくとも、そう遠くないうちに、また“ご帰宅”するだろう。
未踏の皆様へ
各々の可愛さを発露させた女性がお給仕してくださる、ゆめかわ空間だと侮るなかれ。
オタクカルチャーの中心と遠慮することなかれ。
そこには競争社会があり、哲学があった。
ぜひ、一度、赴いてみてください。
世は師走、年の瀬。成長があったご報告までに。