コンプレックス【エッセイ】一〇〇〇字(本文)
早大のオープンカレッジ「エッセイ教室」。冬講座が、1月8日(土)にスタート。6課題。七転八倒、七難八苦の日々が続く。
4回目のお題は、「劣等感orコンプレックス」(600字)。劣等感とコンプレックスの違いは?今回は、拙稿「青春の一ページ(全2回 その1)“政治少年死す”」の一二〇〇字をモチーフに詰め(課題は六〇〇字ですが)、展開を変えました。なお、友人鷹野と2人で自費出版した『政治少年死す』と思われる冊子をネット上で見つけました(記憶している表紙に近い)。
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あの日の「爆弾」が、私を救ってくれた。
巨人軍V9の始まりの年。中学の野球部に2つ違いの弟が入ってきた。硬式野球も経験した父の指導で、小3から「特訓」が始まる。しかし、弟が一緒だった記憶は、ない。
北海道の田舎ではあったが、1年からレギュラー。オール5が、たびたび。3年には、エースで3番。しかし弟は、野球も勉強も目立たず、先生から「アニキを見習え」と言われていたと、後に知る。結局、翌月には退部。彼は野球を諦め、工業高校に進学。陸上部に入り、ハンマー投げ・円盤投げに転向する。
私は、高校でも野球部に。しかし、2年の正月から結核で半年入院するのだが、1年の夏予選の頃、体力も成績も落ちる一方。父に「北大に行くなら野球を諦めろ」と静かに説得され、退部。気力まで奪われ、札幌で1年遅れの、浪人生活と相なる。
しかし、北大革マル派の拠点、恵迪寮にいた同年卒業の友人鷹野と2人で、大江の『政治少年死す』の自費出版に熱中。案の定、不合格となる。
私が出版した本に似ている。定かではないが、実物かもしれない。
「政治少年死す」で画像検索すると「日本の古本屋」というサイトで発見。5,090円で販売されていた(因みに、当時は500円で販売)。福岡県春日市の「よかばい堂」という古本屋が販売元になっている。
弟が測量専門学校に入学することになり、共に上京。彼の賄い付きで、大学を再度めざす。
ある日。参考書を手にして、食事中。弟は、「アニキはいいよな、勉強だけやっていればいいんだし」と叫び、レタス丸ごと、脳天に叩き落としてきた。「レタス爆弾」だ。大きな葉っぱが頭に被さり、河童の姿そのものだった。
高校からの5年間、卑屈になっていた心を爆破してくれたあの日が、人生の分岐点になったように思う。
大学はどうにか合格。卒後、ファミリーチェーンの事業展開に参加、挫折。20代は、失敗を重ねたモラトリアムの時代であったが、30歳から17年の会社勤めのあと独立。ほどほどの結果を得た。あの「事件」で、気力が回復したおかげと思っている。
弟は郷里で、司法書士の伯父の会社を引き継ぎ、測量会社の社長をしている。