見出し画像

旅の彩【エッセイ】六〇〇字

 人生で一位、二位を争う駅弁は、横川の「かまめし」と、長万部の「かにめし」だ。六六年、新宿の京王百貨店が、「全国駅弁大会」を始め、ブームを呼んだ。毎年、二つとも上位にランクされることが、多いようだ。
 子どものころもあったのだろうけども、駅弁の想い出はない。車内で食べた記憶があるのは、六〇年以上前、富良野の麓郷にいたころ、珍しく家族で、小樽に旅行をしたとき。父がホームで買ってきた網入りの「みかん」、「ゆでたまご」と、お茶だ。母が握ってくれたおにぎりとともに、食べた。車窓を流れる景色を見ながら食べるのは、美味しかった。
 初の駅弁は、大学一年のとき。体育科目のスキーの抽選に外れ、「悔しいから、同じ日程で行こうぜ」と、カノジョとその友達とで野沢温泉に向かうとき。「かまめし」だった。
 「かにめし」は、卒業後。仲間三人と企んだ外食チェーン事業に挫折し、傷心の車旅で帰省した帰路。内浦湾を通ったとき、看板が目に入り駅に寄った。海を見ながら食べるのも乙でいいなと、砂浜に車を停め、頬張った。
 計画の立案に一緒した会社の社長から誘われていたのだけど、返事に迷いながら。不安を癒してくれたのが、「かにめし」だった。
 が、そのあとが良くなかった。タイヤが砂に埋まってしまい、脱出できなくなった。ガススタンドまで走り、助けを求めたのだった。
 駅弁は、旅を演出する彩だから、百貨店では、買ったことはない。終息後に—————。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?