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人類共通の敵【エッセイ】一〇〇〇字

 誰かが私にこう問うた。「人類が国や文化を超えて団結することがあるか?」と。「あるとすれば、それは、『共通の敵である宇宙人が攻めて来たとき』だけかも」と答えたところで、目を覚ました。一週間前、20日のことである。
 その朝の「天声人語」を読んでいて、眠気が一挙にふっ飛んだ。同じフレーズが使われていたのだ。
 <常に争ってきた人間が、国や文化を越えて団結できますか。恐る恐る尋ねると、「宇宙人が攻めてこない限り、無理だと思うこともあります」>
筆者が訊いた相手は、『人類滅亡2つのシナリオ』の著者、北大客員教授の小川和也氏。氏は、人類に破滅をもたらす2つの因子として、人知を超える「超知能AI」と、バイオテロや人工ウイルスを可能とする「ゲノム編集技術」を示す。その扱いを誤れば、「最悪な末路」が訪れると警笛を鳴らす。

朝日新聞朝刊(2023年9月20日)

 地球温暖化の影響とされる、異常気象、山火事や大洪水。新型コロナウィルスによるパンデミック。パンデミックが収まり切らない中での、ロシアによるウクライナ侵攻。そして戦術核が使用される危険性も高まっている。さらに、「超知能AIとゲノム編集技術」が加わるというのか。人類は、滅亡のためにいま生きているのではないか・・・。

 「人類滅亡の因子」がますます増え続ける現代だが、冷戦中の1985年。米ソ首脳会談の際、レーガン米大統領とゴルバチョフソ連書記長こんな会話を交わしたと伝えられる。
「米国が宇宙から攻撃されたら助けてくれるか」
「もちろんだ」
「米国も同じだ」
という、微笑ましくもあるエピソードである。
 しかし、SF映画でも、人間と宇宙人との戦争を扱う作品があまたあるが、地球軍対宇宙軍の構図はない(私の観落としかもしれないけれど)。どこかの国(多くは米国)が、一国で(せいぜい同盟国と)世界のために戦う流れ。ここでも、人類が国家を越えることができないでいる。人類共通の敵は、宇宙人が襲撃する前に、すでに目の前にいるのに、である。いまこそ、人類が一致団結して戦うことが求められている。が現実は、その逆に進んでいる。私が見た夢の通りに(宇宙人が攻めてきたとしても)人類が団結するかどうかさえ怪しい。どこかの国が、宇宙人を味方に世界制覇を企てるかもしれない———。

 いや、賢い宇宙人だから、こんなだらしない人類を宇宙船から眺め、こう言うかもしれない。
「まあ、ワインでも飲みながら見ていようじゃないか。われわれが手を出さなくても、人類は自滅するよ。こんな地球を支配したところで何の得がある」と。

TOP画像:www.swissinfo.ch

(おまけ)

過日、(おまけ)で紹介してきた横尾忠則氏の(アートな)書評について、ご本人から「声」に投稿がありました。

朝日新聞朝刊(2023年9月27日)「声」

その横尾氏の書評のひとつ。8月12日に掲載されたものです。

朝日新聞朝刊(2023年8月12日)「書評欄」



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